1億円以上の株式等を保有されている方が、海外へ移住した場合などは、株式等を譲渡していなくてもその含み益に対し、譲渡所得税が課税されることがあります。これを国外転出時課税といいます。当該制度における留意点を取り上げてみます。
制度の概要
国外転出時課税が適用されるのは、次の要件に該当する場合です。なお、国外転出とは国内に住所及び居所を有しなくなることを言います。
【対象者】
【条件(A・B・Cのいずれかに該当)】
A.対象者が国外転出をした場合
B.対象者がその有価証券等を非居住者に贈与した場合
C.対象者が死亡し非居住者である相続人等がその有価証券等を取得した場合
有価証券等には、株式、公社債、投資信託等の他に、未決済信用取引及び未決済デリバティブ取引、さらに匿名組合契約の出資持分が含まれます。
国内在住期間の判定についてですが、出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格(経営・管理など)により在留していた期間は含めません。
続いて対象者の確定申告について見てまいります。
A.国外転出の場合
納税管理人の届出をした場合は出国の日、同届出をしなかった場合は国外転出予定日の3ヶ月前の日の時価により有価証券等の金額判定を行います。
判定の結果、確定申告が必要な場合は、上記届出を行っているときは法定申告期限までに、同届出を行っていないときは出国の日までに対象資産の譲渡所得について確定申告を行います。
なお、確定申告書には、国外転出等の時に譲渡又は決済があったものとみなされる対象資産の明細書を添付します。
B.贈与した場合
贈与者である対象者が、非居住者にその贈与時の価額により有価証券等を譲渡したものとみなして、当該譲渡所得をその年分の所得税計算に加算し、法定申告期限までに確定申告を行います。
なお、贈与した後に非居住者が当該有価証券を売却した場合の取得費は、贈与時の価額となります(対象者が確定申告を行っている場合に限ります)。
C.相続した場合
被相続人である対象者から、相続人である非居住者へその相続時の価額により有価証券等を譲渡したものとみなされます。相続人である非居住者は、相続開始日の翌日から4ヶ月以内に、その対象者の当該譲渡所得を含めた準確定申告書を提出する必要があります。
なお、遺産分割協議が準確定申告期限までに確定していない場合は、法定相続割合により非居住者である相続人に有価証券等の移転があったものとして申告を行います。
課税される所得税及び復興税の適用税率ですが、基本的には株式等の譲渡所得と同様に15.315%となります(住民税の税率は5%)。
国外転出時課税によるみなし譲渡所得は、同年における他の株式等の譲渡損失との通算が可能です。また、過去年分から繰り越された譲渡損失がある場合は、これを通算することもできます。
一方で、みなし譲渡所得計算が損失であった場合は、他の株式等の譲渡所得と通算することはできますが、配当所得との損益通算や損失の繰越控除の適用はありません。
還付と納税猶予について
国外転出時課税制度による課税を受けた後、一定の状況に該当する場合は所定の手続きを行うことにより、納税額が還付されることがあります。
Aのケースですが、国外転出後5年以内に帰国等した場合は、帰国等の日から4ヶ月以内に更正の請求を行うことにより、国外転出時における課税を取り消し、還付を受けることができます。
Bのケースですが、贈与日から5年以内に受贈者が帰国等した場合に上記の手続きを行うことにより、還付を受けることができます。
Cのケースですが、相続開始の日から5年以内に対象資産を取得した相続人等が帰国等した場合に上記の手続きを行うことにより、還付を受けることができます。
また、下記の納税猶予期間中に対象資産を譲渡し、譲渡価額が国外転出時の価額よりも下落している場合や、納税猶予期間の満了日の対象資産の価額が国外転出時の価額よりも下落している場合は減額措置があります。
続きまして、国外転出時課税における納税猶予の特例制度について触れてまいります。
納税猶予の手続きですが、国外転出等の日の属する年分の確定申告書(Cの場合は準確定申告書)に納税猶予の適用を受けようとする旨を記載し、かつ所定の明細書及び計算書を添付します。なお、納税管理人の届出書の提出及び担保の提供※も必要となります。
※贈与のケースでは対象者は引き続き居住者である為、納税管理人の届出は不要です。担保は所得税及び5年分の利子税に相当する金額となります。
納税猶予期間は原則5年で最長10年間となります。納税猶予の適用を受ける者は、猶予の期限が終了するまで毎年3月15日までに継続適用届出書を税務署長に提出しなければなりません。
納税猶予期間中に、有価証券等の譲渡等をした場合又は期間満了となった場合には、納税猶予は終了し、猶予に係る所得税及び利子税を納付することとなります。
テーマのポイント(Points to note)
海外移住の他にも、会社員の方が長期海外赴任することとなった場合や、日本に居住していた外国籍の方が本国へ帰国することになった場合なども国外転出時課税が生じる可能性があります。
国外にある有価証券等も当該制度の対象資産となります。1億円以上かどうかの判定時には、NISA口座内にある有価証券も考慮する必要があります(譲渡所得計算には含めません)。
国外転出をし納税猶予の適用を受けている者が、転出先の国で対象資産を譲渡したことにより生じた外国所得税については、国外転出時の年分に納付したものとみなして、外国税額控除の適用を受けられる場合があります。
最後に、海外移住を計画されておりかつ日本で課税された場合の税率が低いのであれば、移住前に対象資産を売却しておくことも一つの税金対策となります。
The substantial amount of securities held may be subject to the exit tax not only when moving abroad permanently, but also when employees travel overseas as expatriates for a long term or residents having foreign nationality in Japan return to their home country.
If you are scheduled to move abroad and the tax rate in Japan will be lower than that of destination country, selling your shares before moving could ease the tax burden.






