非上場株式(取引相場のない株式)の評価の手順ですが、まずは同族株主の判定を行い、続いて会社規模の判定、特定の評価会社の判定、そして各評価方式の計算を行います。今回は同族株主の判定を中心に解説いたします。
目次
同族株主がいる場合
非上場株式の評価方式には、原則的評価方式である純資産価額方式・類似業種批准方式と特例的評価方式である配当還元評価方式があります。評価方式を決めるには同族株主の判定を行います。
|同族株主の定義
同族株主の判定は、相続又は贈与により株式を取得した後の議決権数により行います。判定は納税義務者以外の者においても行う必要があります。
まず、同族株主の定義は次のようになります。
同族関係者とは法人税法施行令第4条に規定する個人又は法人たる同族関係者を言います。具体的には株主の親族(配偶者、6親等内の血族及び3親等内の姻族)等や株主等の一人が他の会社を支配(発行済株式等の50%超保有)している場合の当該他の会社等をいいます。
なお、同族株主がいる場合で、最も議決権の多い株主グループの議決権の合計が50%を超えるときは、その50%超を有する株主グループに属する株主のみが同族株主となります。従いまして、他に30%以上の議決権を有する株主グループがいたとしても、このケースではその株主グループは同族株主には該当しません。
同族株主のいる場合の株式の評価方法ですが、基本的には原則的評価方式となります。但し、下記の株主につきましては特定的評価方式により評価を行います。
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- 同族株主以外の株主
- 中心的な同族株主が存在する会社において、同族株主のうち保有議決権割合が5%未満で、かつ中心的な同族株主及び役員に該当しない株主
役員に該当しない者についてですが、課税時期において役員ではない者と課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員とならない者が該当します。役員は社長、副社長、専務、常務の他監査役などが該当しますが、いわゆる平取締役は含まれません。
|中心的な同族株主の定義
中心的な同族株主とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族などの有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます。
なお、これらの者により50%超の議決権を保有されている会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその法人の議決権総数の25%以上である会社も含みます。
同族関係者ですが、個人または法人との間でこれらの者の意思と同一内容の議決権行使に同意している者がいる場合は、その議決権は当該個人または法人が有するものみなされます。
同族株主がいない場合
同族株主がいない場合であっても、必ずしも特例的評価方式が使えるわけではありません。評価方式を決めるためには次の手順で判定を行います。
|判定の手順
同族株主がいない場合、その会社の株主のうち課税時期において1人及びその同族関係者が有する議決権の合計が15%以上の株主グループが存在するかどうかを確認します。
議決権の合計が15%以上の株主グループがいるときは、下記の場合に該当する株主が特例的評価方式を使用することができます。
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- 議決権割合の合計が15%未満の株主グループに属する株主
- 中心的な株主が存在する会社で、15%以上議決権を有するグループに属し、保有議決権割合が5%未満かつ役員に該当しない株主
議決権の合計が15%以上の株主グループがいない場合は、特例的評価方式により評価します。ご参考までに特例的評価方式である配当還元方式の計算式を記載します。

配当金ですが、年配当額が2円50銭未満(無配の場合を含む)の場合は2円50銭となります。
|中心的な株主の定義
中心的な株主とは、同族株主のいない会社の株主で、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%以上の株主グループに属する株主のうち、単独でその会社の議決権の10%以上を保有している株主をいいます。
15%以上保有している株主グループに属しており、かつ自身の議決権割合が4%であったとしても、中心的な同族株主がいない場合は原則的評価方式が採用されます。なお、開業前又は休業中の会社、又は清算中の会社の株式である場合は、配当還元方式により評価を行うことはできません。
ケーススタディ
ここでは設例を用いて評価方式の判定を行ってみたいと思います。同族株主がいるケースと同族株主がいないケースを用意しました。
|同族株主がいるケース
非上場会社X社の代表取締役Y(議決権55%を保有)に相続が発生し、配偶者Zの他A~Fの親族(役員ではない)が同社の株式を下記のように取得した場合における同族株主の判定と評価方法はどのようになりますか。なお、少数株主が議決権の45%を保有しているものとします。

Zグループの議決権割合の合計は55%ですので、X社は同族株主のいる会社となり、少数株主以外の全員が同族株主となります。従いまして議決権割合が5%未満ではないZ、A、D、Eは原則的評価方式となります。B、C、Fの議決権割合は5%未満ですが、Fは中心的同族株主となりますので原則的評価方式により評価します。B、Cですが、Aを中心としますと中心的同族株主のように思われますが、B、Cを中心で見た場合、グループはZ、A、B、Cで合計議決権割合は24%ですので、中心的な同族株主には該当せず特例的評価方式による評価となります。
|同族株主がいないケース
非上場会社α社の株主は、βが26%、γが25%、乙が24%で残り25%は少数株主とします。乙に相続が発生し、配偶者である甲と子である丙が8%ずつ、残りは子である丁と戊が4%ずつ取得したものとします。なお、相続人に役員はいないものとします。

まず、同族株主の判定ですが、30%以上の議決権を有している株主グループはありませんので、α社は同族株主のいない会社となります。また、βなどは15%以上かつ単独で10%を有しているため中心的な株主が存在します。甲グループの合計議決権割合は15%以上ですので、保有議決権割合が5%以上の甲及び丙は原則的評価方式となり、5%未満である丁及び戊は特例的評価方式となります。
その他の留意事項
最後に同族株主の判定等に影響を及ぼす可能性のある留意事項を取り上げてまいります。
|議決権総数が変わる場合
評価会社が自己株式を有するときには、その自己株式に係る議決権の数はゼロとして計算した議決権の数をもって、評価会社の議決権総数とするものとされています。
また、株式の持ち合いを行っている会社は注意が必要です。会社法308条第1項の規定により、議決権の4分の1以上保有されている会社が保有する相手方の株式については、議決権がないものとされます。議決権総数から控除することになる為、結果的に各株主の議決権割合は増加することになり、同族株主の判定等に影響を及ぼす場合があります。
|未分割の場合
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらないときは、相続財産を法定相続割合により取得したものとして相続税の申告を行います。
一方、同族株主の判定におきましては、被相続人の株式を各相続人ごとに所有する株式数に加算して、議決権割合の計算を行うこととなります。もし、申告後に遺産分割協議がまとまり、同族株主の判定を再び行った結果、納税額が減少することが見込まれるときは、遺産分割協議成立日から4ヶ月以内に更正の請求を行うことで還付が受けられます。
まとめ(Conclusion)
非上場株式の評価は、配当還元方式によることができれば評価額が大きく下がる場合があります。血縁関係者以外の者への事業承継や、従業員持株会を設立するケースなどにおいては、少ない税負担で株式を移すことが期待されます。
When valuing unlisted shares, if you can use the dividend capitalization method, you may significantly decrease the amount of value. In cases such as business succession to non-relatives or establishing an employee stock ownership plan, it is expected that unlisted shares will be transferred to others with a lower tax burden.






