令和6年4月1日以後開始事業年度における、中小企業向けの賃上げ促進税制ですが、注目は何といっても繰越控除制度が設けられたことです。もし適用事業年度に控除しきれない金額があった場合は、5年間の繰越控除が可能となります。
目次
中小企業における取扱い
青色申告である法人が、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度の事業年度終了日において中小企業者等に該当する場合は、中小企業向けの賃上げ促進税制を適用することができます。判定方法ですが、従来通り雇用者給与等支給額の増加率を用いる為、継続雇用者の給与支給額を集計する必要はありません。
|中小企業者等の定義
租税特別措置法に規定する中小法人と中小企業者等とでは、その範囲が異なります。中小法人とは、普通法人のうち資本金又は出資金が1億円以下(又は有しない)で、資本金5億円以上の法人との間に完全支配関係がある法人などを除いた法人をいいます。
中小企業者等とは、青色申告書を提出する者で資本金又は出資金が1億円以下の法人及び資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1千人以下の法人をいいます。但し、下記に該当する法人は除かれます。
・発行済株式総数又は出資総額の2分の1以上を同一の大規模法人に所有されている法人
・発行済株式総数又は出資総額の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人
※農業協同組合等も中小企業者等の範囲に含まれます。
なお、大規模法人とは資本金が1億円を超える法人や、資本金5億円以上の法人による完全支配関係がある法人などをいいます。
判定の仕方について設例で見てみます。
【判定結果】
A社の資本金は1億円以下であり、完全支配関係がある大法人も存在しない為、中小法人に該当します。しかし、大規模法人に該当するX社及びY社が3分の2以上のA社株式を保有している為、A社は中小企業者等には該当せず、中小企業向けの賃上げ促進税制を適用することはできません。
|税額控除率
中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件である雇用者給与等支給増加額の対前事業年度比率と、その税額控除率につきましては、次のようになります。
前事業年度比 | 税額控除率 |
+1.5% | 15% |
+2.5% | 30% |
継続雇用者による判定ではない為、パートやアルバイトなどに係る給与等も計算に含めます。
【上乗せ要件】
まずは教育訓練費に係る上乗せ措置ですが、
(a) 教育訓練費が前事業年度比5%以上増加
(b) 教育訓練費の金額が雇用者給与等支給額0.05%以上
(a)(b)両方に該当するときは10%の控除率の上乗せとなります。
教育訓練費の範囲等につきましては、中小企業庁のガイドブックなどをご参照ください。次に子育て両立支援・女性活躍支援に係る上乗せ措置ですが、
(c) 適用事業年度中にくるみん(プラス)認定、えるぼし(2段階目以上)認定を取得した
(d) 適用事業年度終了時にプラチナくるみん(プラス)認定、プラチナえるぼし認定を取得している
(c)(d)いずれかに該当するときは5%の控除率の上乗せとなります。認定申請手続き等につきましては、厚生労働省や所管の労働局のウェブサイトなどをご参照願います。
繰越控除制度
中小企業者等が賃上げ促進税制の適用要件を満たす事業年度において、赤字で法人税が発生しない場合や、税額控除限度額が税額基準額(法人税の20%相当額)を超過する場合は、控除できなかった金額(繰越税額控除限度過額)を翌事業年度以後5年間繰り越すことができます。
|繰越控除の適用要件
翌事業年度以後に繰越税額控除限度超過額の控除を適用しようとする場合には、その適用しようとする事業年度において、①雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を上回っていること、②黒字で法人税額が発生していること が必要条件となります。
|繰越しの手続
繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度は、別表六(二十四)及び別表六(二十四)付表一における所定の箇所を記載し、これらの明細書を確定申告書に添付します。
翌事業年度以後ですが、赤字などにより繰越控除の適用がない事業年度は、繰越額を記載した別表六(二十四)付表一を確定申告書に添付します。要件を満たしており繰越控除の適用を受ける事業年度は、別表六(二十四)及び別表六(二十四)付表一における所定の箇所を記載し、これらの明細書を確定申告書に添付します。
確定申告書の記載方法
中小企業向けの賃上げ促進税制の適用を受ける場合における確定申告書の記載方法ですが、大企業及び中堅企業のときと同じく別表六(二十四)及び別表六(二十四)付表一を使用します。なお、確定申告書には適用額明細書を添付します。
|別表の記入の仕方
付表の記入ですが、継続雇用者(比較)給与等支給額は記載不要です。「1」から「12」欄を使用して、(比較)雇用者給与等支給額と上限計算に使用する調整(比較)雇用者給与等支給額の記入を行います。
教育訓練費の上乗せ控除を適用するときは、比較教育訓練費について「20」から「24」に記入します。
繰越控除制度についてですが、未使用の控除額があるときは翌期繰越税額控除限度超過額の計算欄に記入します。記入は別表六(二十四)を完成させた後に行います。
別表六(二十四)の記入ですが、左側の列には付表の金額を転記するとともに各増加額及び増加割合を算定し、「22」の数値(差引控除対象雇用者給与等支給額増加額)まで記入します。一方、右側の列の税額控除限度額の計算は、中小企業者等の場合は第3項適用の場合の欄に記入します。
「7」の雇用者支給額増加割合が1.5%以上であれば税額控除の適用があり、2.5%以上のときは 0.15 を「37」に記入します。
教育訓練費については「18」が5%以上(適用事業年度に金額があり、前事業年度がゼロの場合も含む)であり、かつ「19」が0.05%以上のときは「38」に 0.1 を記入します。
くるみん又はえるぼし2段階目以上を取得しているときは「39」に 0.05 を記入します。
「40」の控除限度額は、「22」差引控除対象雇用者給与等支給増加額に 0.15 と「37」「38」「39」の控除率を合算した率を乗じて算出します。控除率は最大で45%です。
「40」の金額が「42」の金額(法人税20%相当額)に満たないときは、付表の翌期繰越税額控除限度超過額の計算「25」「26」「27」欄に各々金額を記入します。
|ケーススタディ
ここでは架空の数値を使用して、繰越控除による税額控除を行う場合の記載例を紹介いたします。甲社は中小企業者等に該当し、令和7年3月期において賃上げ促進税制の要件を満たしており、控除限度額は200万円、法人税の20%相当額は80万円、翌期繰越額は120万円となっております。
令和8年3月期は赤字で法人税が生じていません。令和9年3月期は賃上げを行っており、控除限度額は50万円、法人税の20%相当額は90万円となっております。
この場合、甲社の各事業年度において添付する明細書は次のように記載します。
【令和7年3月期】
別表六(二十四)ですが、「40」に200万円、「42」「43」「45」「51」に80万円を記入します。別表六(二十四)付表一ですが、当期の控除限度額、当期の控除可能額、翌期への繰越額について下記のように記入します。
【令和8年3月期】
赤字である為、別表六(二十四)は添付不要となり、別表六(二十四)付表一については繰越額を下記のように記入し、確定申告書に添付します。
【令和9年3月期】
当期の控除限度額が税額基準額(法人税の20%)を下回っている為、繰越控除額を使用することができます。別表六(二十四)における前期繰越分の記載は次のようになります。
※「46」差引当期税額基準額残額は90万円-50万円=40万円となります。
別表六(二十四)付表一には、前期繰越額及びその利用額、そして翌期への繰越額について下記のように記入します。
※前期繰越があったとしても控除できるのは、当期分も含めて適用事業年度の法人税額の20%までとなります。
まとめ(Conclusion)
中小企業向けの賃上げ促進税制に繰越控除制度が設けられましたが、翌事業年度以後が赤字であったり、賃上げを実施していなければ利用することができません。また、利用がなかったとしても繰り越すためには明細書の添付は必須ですので、忘れないように注意が必要です。
The carry forward credit rule has been established in the promoting wage increase tax credit system for small and medium-sized companies. But it won’t be able to use if they are in red or they doesn’t implement wage increases in the subsequent fiscal year. Even if the carry forward credit is not applied in the fiscal year, the appendix 1 to appended table 6(24) is required to attach to the tax return form to carry forward to the next fiscal year.