経営セーフティ共済の掛金は納付時に必要経費又は損金に算入され、かつ一定期間納付すれば全額返金されることから節税の手法としても用いられますが、税制改正により制限が加えられることになりました。経理処理方法も含めて解説いたします。
目次
制度の概要
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、1年以上事業を継続している個人事業主又は法人(中小企業者)が加入することができます。但し、常時使用する従業員数が業種ごとに定められた人数以下の場合に限ります。
同共済加入者は取引先が倒産した場合には、中小機構より共済金の貸付を受けることができます。また、取引先の倒産がなくても一時貸付を受けることができます。
※融資を受けられる条件等の詳細は、中小機構のホームページ等をご参照ください。
|税務上の取扱い
毎月の掛金ですが、20万円(年間240万円)が上限となっております。また掛金は1年分を前払いすることも可能です。その場合は、最大で480万円を必要経費又は損金に算入することができます。一方、解約手当金は総収入金額又は益金に算入することとなります。40ヶ月以上掛金を納付しますと解約したときに掛金の全額が戻ってきます。
なお、個人事業主の場合は「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」を、法人の場合は「別表10(7)」及び「適用額明細書」をそれぞれ確定申告書に添付することが要件となっております。
ご参考までに月10万円(年間120万円)の掛金納付をしている場合における各明細書の記入例を掲載いたします。
まずは個人事業主の場合です。
続いて法人の場合です。記載する項目は同じですが、記入箇所は Ⅲ 特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書 の欄に記入します。
適用額明細書には租税特別措置法の条項と区分番号も記入します。
※区分番号等は国税庁ホームページの適用額明細書の記載の手引から参照することができます。
|税制改正の影響
令和6年度税制改正により、令和6年10月1日以後に同共済を契約解除した場合において、解除後に新たに共済契約を締結したときは、その解除した日から2年を経過する日までの間に支出する掛金については特例の適用がなくなり、必要経費又は損金に算入できないこととなりました。
2年経過後はこれまで通り、納付した掛金を必要経費又は損金に算入することが可能です。
経理処理の方法
経営セーフティ共済の掛金は資産性が高い為、費用処理せずに資産計上することも可能です。掛金納付及び解約手当金受取の他、借入金の会計処理につきましてご紹介します。なお、参考までに消費税区分を掲載しております。
|仕訳の紹介
・掛金納付時
費用処理する場合の仕訳は、次のようになります。
資産計上する場合の仕訳は、次のようになります。
・共済契約解約時
解約手当金を受け取った場合の仕訳は、次のようになります。
また、資産計上しているときの仕訳は、次のようになります。
・借入入金及び返済時
共済金の貸付に係る仕訳ですが、返済期間が1年超となる場合は長期借入金とします。なお、共済金の貸付は無利子です。
一時貸付金であれば借入期間は1年間となる為、短期借入金とします。一時貸付金には利息が発生します。
借入金を返済した場合の仕訳ですが、共済金の貸付であれば次のようになります。
また、一時貸付金であれば次のようになります。
|前納に係る取引
前納分を支払った場合の仕訳ですが、前払費用とする方法と保険料とする方法があります。来期分の掛金であれば前払費用とするのが原則ですが、支払日から1年以内の掛金であれば短期前払費用の特例により、全額費用計上して必要経費又は損金に算入することが可能です。前払費用に計上した場合は、その後経過分について前払費用から保険料への振替仕訳を計上します。
掛金の前納を行った場合、前納減額金が支給されることがあります。前納減額金の受取りについては、個人事業主の場合は事業所得として総収入金額に計上し、法人の場合は雑収入などの科目を使用して営業外収益に計上します。
その他の論点
最後に経営セーフティ共済にまつわるその他の論点についても簡潔に触れてみたいと思います。
|法人成り
掛金を支払い経費処理を行っている個人事業主が、法人を設立した場合の掛金の納付額の取り扱いですが、法人側では解約返戻金相当額※を資産計上し、個人側では同金額を雑収入に計上することが考えられます。
※納付月数が40ヶ月以上であれば掛金全額が、納付月数が12ヶ月以上40ヶ月月未満のときは掛金の80%~95%が解約手当金となります。なお、納付月数が12ヶ月未満の場合は解約しても返戻金を受け取れませんので、処理は不要となります。
|死亡した場合
経営セーフティ共済に加入している個人事業主が死亡した場合ですが、解約手続きをして解約手当金を受け取ったときは、被相続人の事業所得の総収入金額に計上して、相続人が被相続人の所得税の準確定申告を行うこととなります。また、解約返戻金相当額が相続財産となり相続税の課税対象となります。
一方、相続人が事業を引き継いで契約者としての地位を承継したときは、解約返戻金相当額が相続財産となり相続税の課税対象となります。
まとめ(Conclusion)
経営セーフティ共済は、納付する掛金は課税所得を減らすこととなる一方で、解約手当金は課税所得を増やすこととなります。解約年度において設備投資や役員退職金など相応の費用を計上し、解約手当金に係る収入を相殺することでより節税効果を高めることができます。
While premiums of business safety mutual relief system reduce taxable income, cancellation refund of it will increase taxable income. In the year of cancellation, paying expenses such as capital investments or director’s retirement benefits corresponding to the amount of cancellation refund will offset the revenue and get more effective for the tax saving.