相続があった場合、被相続人が保管していた預金通帳の名義が相続人の名義であっても、被相続人の相続財産として相続税が課される場合があります。名義財産は税務調査において指摘されるケースが多いため注意が必要です。
目次
生前贈与とされないケース
被相続人が生前に配偶者や子供に贈与をすることがありますが、贈与が成立するためには、贈与者側の贈与の意思と受贈者側の贈与の受諾が必要です。これらが無いときは、原則贈与は成立していないこととなります。但し、税務上、贈与の判断は贈与契約書の有無なども含め個々の事情を総合的に勘案して行われます。また、財産の種類によっては結論が異なることもあります。
|預貯金の場合
いわゆる名義預金に係る贈与の判定ですが、例えば親(被相続人)が子供(相続人)に財産を残すために子供名義の預金口座を作成しているケースで考えてみますと、下記に該当するときは贈与とはみなされない可能性が高いです。
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- 被相続人自身が同口座での取引を行っている場合
- 通帳を渡しておらず被相続人が保管している場合
- 被相続人の口座と同じ印鑑を届出印としている場合
- 贈与契約書の作成や贈与税申告を行っていない場合
贈与が認められるためのポイントとしましては、実際に名義人が同口座につき管理運用しているか否かが重要となります。
|不動産等の場合
土地や建物の場合は、登記上の所有者が法律上の所有者とされます。不動産の名義を変更した場合において金銭等の対価の授受が行われない場合や、他者の名義で新たに不動産を取得した場合は、原則贈与として扱われます。
例えば夫が不動産の購入代金を全額拠出し、妻との共同名義で2分の1ずつの登記を行ったケースで考えてみますと、不動産の価額の半額相当額がみなし贈与として妻に贈与税課税されます。なお、みなし贈与は相続税法の規定ですので、前述の贈与の意思や受諾は関係ありません。
株式につきましても同様に、名義変更時に対価の授受がない場合は贈与の扱いとなります。但し、実際には名義株か否かの判断は下記のような事実関係を確認したうえで行われます。
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- 株式の取得の経過や取得資金の負担者について
- 株式の受領について贈与税申告を行っているか
- 当該株式の配当金を名義人が受け取っているか
- 株主総会議事録や別表二における記載があるか
※その他には名義人が当該株式の株主であることを認識しているかどうか等が確認ポイントとなります。
生命保険についてですが、契約者が相続人であっても、被相続人が保険料を負担している場合は、被相続人の財産と判定されます。詳しくは次の項目において説明いたします。
名義保険かどうかの判定ですが、被相続人の口座から保険料が支払われている、被相続人の確定申告において生命保険料控除を適用している、といったケースは被相続人の財産と認められる可能性が高いです。
|取り消しがあった場合
不動産や株式等について金銭等の対価の授受が行われずに他者の名義で取得した場合は、基本的に贈与として扱われます。但し、その後に贈与の取消しがされており、下記の要件に該当するときは、贈与はなかったものとして扱われます。
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- 贈与税の申告若しくは決定又は更正がされる前に贈与者の名義に戻している
- 財産の名義人となった者が名義人となっている事実を知らなかったことが確認できる
- 財産の名義人がその財産について使用収益していない
- 不動産等の取得が過誤に基づき又は軽率にされたもので、かつそれが取得者の年齢等により確認できる
注意点としまして、上記の要件を満たしていたとしても、贈与税の逋脱を図ろうとしていると認められるときには、この取扱いは適用されません。
生命保険金等の取扱い
生命保険金や損害保険金の取扱いは非常に煩雑となります。保険金を受け取った場合はもちろん、保険金の受け取りがない場合においても課税されることがあります。また、課税される税金の種類にも注意が必要です。
|死亡保険金
被相続人の死亡時に支払われる生命保険金は、保険金受取人の固有財産となります。従いまして遺産分割の対象外となります。もし当該保険金を他の相続人へ渡した場合は贈与の扱いとされます。
生命保険金は相続税の計算において、法定相続人の数 × 5百万円 の金額までは非課税となります。
税務上の取扱いは、契約者・被保険者・保険料負担者・保険金受取人が誰なのかにより異なります。下記にパターン別に表にしてみました。
パターン | 契約者 | 被保険者 | 保険料負担者 | 保険金受取人 |
A | 被相続人 | 被相続人 | 被相続人 | 相続人 |
B | 相続人 | 被相続人 | 被相続人 | 相続人 |
C | 相続人 | 被相続人 | 相続人 | 相続人 |
D | 相続人① | 被相続人 | 相続人① | 相続人② |
パターンA及びBについてですが、ともに生命保険金は相続税の課税対象となります。Bは名義(契約者)は相続人ですが、被相続人が保険料を負担しており、かつ被保険者である為、死亡保険金はみなし相続財産となります。
パターンCについてですが、相続人が保険料を負担しておりかつ保険金を受け取りますので、一時所得として所得税が課税されます。
パターンDについてですが、相続人①が保険料を負担していますが、相続人②が保険金を受け取りますので、相続人②に贈与税が課税されます。
|生命保険契約の権利
相続があった場合において、生命保険の被保険者が相続人であるときは、保険金の支払いはありませんが、保険料を被相続人が負担していれば、生命保険契約の権利を相続することとなります。相続財産の計算に用いる金額は、解約返戻金相当額となります。
パターン | 契約者 | 被保険者 | 保険料負担者 |
D | 被相続人 | 相続人 | 被相続人 |
E | 相続人 | 相続人 | 被相続人 |
パターンDについてですが、生命保険契約の権利を相続した為、相続人に相続税が課されます。なお、当該保険は遺産分割の対象となります。なお、生命保険契約の権利には非課税枠はありません。
パターンEにつきましても、相続により生命保険契約の権利を取得したものとみなして、相続人に相続税が課されます。但し、Dとは異なり契約者固有の財産となる為、当該保険は遺産分割の対象にはなりません。
生前に契約者を変更した場合の取扱いについてですが、とある生命保険契約において親が被保険者かつ保険料負担者となっている場合で、生前に契約者を親名義から子供名義に変更したときは、その時点では贈与税課税はされません。
その後、満期保険金を子が受け取ったときは、満期保険金のうち親が負担した保険料相当額について贈与税が課税されます。また、子自身が負担した金額相当額については一時所得として所得税が課税されます。計算式は下記のとおりです。
【贈与財産価額計算式】
【一時所得収入金額計算式】
特殊な贈与に関する取扱い
ここでは一般的な贈与以外の取引に触れてまいります。代表例としまして負担付贈与のケースと代償分割のケースについて取り上げてみました。
|負担付贈与
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。例としましては、不動産等の資産を贈与する代わりにローンの残額を支払ってもらうケースなどが挙げられます。注意点としまして、負担付贈与により不動産を取得する場合におけるその財産の価額は、相続税評価額ではなく通常の取引価額となります。
<ケーススタディ1>
親Fが所有しているアパートを子Gに贈与したとします。建物の時価は3千万円、固定資産税評価額は2千万、取得費は1千5百万円です。また、建物取得に係る借入金の残高が8百万円、預り敷金が2百万円有り、これらを子Gに負担してもらうものとします。
【課税関係】
まず贈与者である親Fについてですが、建物を債務負担額(借入金+敷金)で子Gに譲渡したことになります。譲渡所得金額の計算ですが、
(8百万円+2百万円)-1千5百万円=▲5百万円
となります。但し、時価と比べて譲渡対価が著しく低い為、譲渡損5百万はなかったものとされます。
続いて受贈者である子Gについてですが、贈与財産の価額(時価)から債務負担額を控除した金額が贈与となります。
3千万円-(8百万円+2百万円)=2千万円
なお、贈与された建物の取得価額ですが、原則は債務負担額ですが、同金額が時価と比べて著しく低く、かつ取得費よりも低額のときは、贈与者の取得価額を引き継ぐこととなります。
【留意事項】
上場株式について負担付贈与を行った場合の評価額ですが、課税時期の公表最終価格となります。月平均の金額を用いることはできません。
仮に負担債務の金額を同時に現金贈与したときは、負担付贈与の取扱いとはならない為、不動産であっても相続税評価額により計算することとなります。
|代償分割
代償分割とは、遺産分割において共同相続人の一人又は数人に相続財産を現物で取得させ、その取得者が他の共同相続人に債務を負担するものです。
<ケーススタディ2>
父親Xが亡くなり、相続人は母親Y及び子供Zです。父親Xは土地を所有しており時価は6千万円で、相続税評価額は4千8百万円、取得価額は3千万円です。当該土地は母親Yが相続し、子供Zには母親Yが所有している別の土地(時価2千5百万円、取得価額1千万円)を渡す旨の遺産分割協議を行いました。
【課税関係】
まず母親Yですが、相続税の課税価格の計算は相続により取得した財産の価額(相続税評価額)から代償財産の価額を控除した金額となります(4千8百万円-2千5百万円=2千3百万円)。
もらった土地の取得価額は、相続財産である父親Xの土地の取得価額を引き継ぐことになりますので3千万円です。
また、代償分割により自己が所有していた不動産を渡した場合は、譲渡の扱いとされます。譲渡収入は代償資産の時価となりますので、2千5百万円-1千万円=1千5百万円 が譲渡所得の金額となります。
続いて子供Zですが、相続税の課税価格は、取得した財産の価額に代償財産の価額を加算した金額です。このケースでは相続人から財産は取得しておりませんので2千5百万円となります。
また、代償財産である土地の取得価額は、代償債務の履行時における価額である為、2千5百万円です。
なお、各人の課税価格は、相続財産である土地の代償分割時の時価を基にして計算することも可能です。その場合における各人の課税価格は次のようになります。
母親Y:4千8百万円-{2千5百万円 × (4千万円 ÷ 5千万円)}=2千8百万円
子供Z:2千5百万円 × (4千万円 ÷ 5千万円)=2千万円
まとめ(Conclusion)
税務調査におきましては、贈与が認められず相続財産とされ相続税の追徴課税がされる場合があります。贈与の時効を主張したとしても贈与の起算日を証明できないときは、その可能性が高くなります。従いまして贈与契約書をはじめ贈与の履歴を残しておくことは大変重要です。
In a tax investigation, any gift assets may be recognized as the inherited property, and be imposed additionally on inheritance tax. Even if you claim the statute of limitations for gift tax, the additional taxation is likely to happen as long as you can’t prove the date of gift. Therefore, it is crucial to keep records of gifts, including gift agreements.