令和7年3月期の賃上げ促進税制の解説①【大企業編】

令和7年3月期の大企業における賃上げ促進税制ですが、引き続き継続雇用者の給与支給額の増加割合により適用判定を行います。上乗せ要件につきましては、従来の教育訓練費の他に、子育て支援や女性活躍支援の取組が追加されております。

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大企業における取扱い

賃上げ促進税制における法人の区分ですが、令和6年税制改正により、「大企業」「中堅企業」「中小企業」の三区分とされました。グループ通算制度を適用している法人であっても、当該制度の適用の判定は法人毎に行います。

|適用要件

賃上げ促進税制上における大企業の明確な定義はありませんが、青色申告を行う法人で中堅企業や中小企業に該当しない法人は、大企業向け※の制度を採用することとなります。具体的には資本金が1億円を超えているなど中小企業者等に該当せず、かつ常時使用する従業員数が2千人を超えている法人が該当します。

※実際には全企業向けですが、中堅企業や中小企業はそれぞれの制度を利用した方が有利です。

令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度における大企業の賃上げ促進税制の適用要件である継続雇用者給与等支給額の前事業年度比及び税額控除率につきましては、次のようになります。

前事業年度比 税額控除率
 +3% 10%
 +4% 15%
 +5% 20%
 +7% 25%

継続雇用者の給与等支給額の対前事業年度比率が高くなるほど税額控除率もアップします。税額控除額の算定は、継続雇用者ではなく国内雇用者の給与等支給額の増加額から行います。

【算式1】控除対象雇用者給与等支給増加額 × 税額控除率

用語の定義はこれまでと変わりません。継続雇用者とは、適用事業年度及び前事業年度の各月において給与等の支給を受けた国内雇用者のうち雇用保険の一般被保険者であり、かつ継続雇用制度の対象者でない者をいいます。一方、国内雇用者は国内の事業所に勤務する雇用者で賃金台帳に記載された者をいい、パートやアルバイトを含み役員等を除きます。

|雇用安定助成金がある場合

雇用者給与等支給額などの金額を算定する際には、給与等の支給額から「給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額」を控除します。給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額には、(a)補填額 と(b)雇用安定助成金額 があります。

(a)補填額には、労働移動支援助成金など国から支給される一定の助成金の他、出向先法人から出向元法人へ支払われる出向者に係る給与などが含まれます。

(b)雇用安定助成金額には、雇用安定助成金などの助成金が含まれます。

継続雇用者給与等支給額及び継続雇用者比較給与等支給額を算定するときや、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額を算定するときは、それぞれの給与支給額から給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額を控除しますが、(b)の金額は省きます。

【算式2】給与等支給額-給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額+雇用安定助成金額

なお、雇用安定助成金額には「役務の提供の対価として支払いを受ける金額」も含めます。役務の提供の対価として支払いを受ける金額ですが、健康保険法その他法令の規定に基づく診療報酬の額などが該当します。

但し、調整雇用者給与等支給及び調整雇用者比較給与等支給額の計算におきましては、給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額から(a)・(b)いずれの金額も省かずに控除します。

【算式3】給与等支給額-給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額

控除対象雇用者給与等支給増加額は、雇用者給与等支給増加額と調整雇用者給与等支給増加額のいずれか少ない金額となります。

 

控除率の上乗せ要件

税額控除率の上乗せ要件ですが、従来の教育訓練費の増加割合をクリアする他に、子育て支援や女性活躍支援に積極的に取り組んでいる法人が対象となります。

|教育訓練費

適用事業年度において、対象となる教育訓練費の対前事業年度比の増加率が10%以上であり、かつ教育訓練費の金額が当該事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であるときは、税額控除率が5%上乗せされます。

対象となる教育訓練費の内容につきましては、改正前と同様に外部講師謝金、外部施設使用料等、研修委託費及び外部研修参加費となります。詳細は経済産業省のガイドブックをご参照ください。

一方で下記のような費用は、教育訓練費の対象とはなりません。

    • 使用人等へ支払う教育訓練中の人件費
    • 教育訓練に係る旅費交通費や宿泊費
    • 福利厚生目的の場合の費用
    • 法人の施設取得に要する費用
    • 法人所有施設に係る光熱費等
    • 教材の一定の購入費用 など

 

教育訓練費に係る明細書ですが、従前は確定申告書への添付が必要ですが、令和6年度税制改正後の事業年度におきましては、添付不要となりました。但し、明細書の作成及び保存が必須となっております。

|子育て支援・女性活躍支援

令和6年度税制改正により、子育て支援や女性活躍推進に関する認定を受けている法人に対して、税額控除の更なる上乗せが適用されるようになりました。

具体的には、大企業の場合、プラチナくるみん認定(プラチナくるみんプラス認定を含む)又はプラチナえるぼし認定を事業年度終了時に取得していれば、税額控除率5%が上乗せされます。

プラチナくるみん認定は、一定の育休取得率と在職割合等をクリアする必要があります。プラチナえるぼし認定は、女性の採用割合や勤続年数等が一定基準を満たす必要があります。詳しくは厚生労働省のウェブサイトにてご確認ください。

また、適用事業年度の前事業年度に取得していた場合も要件を満たします。

教育訓練費と子育て支援・女性活躍支援の両方の上乗せ要件を満たしている場合は10%の控除率の追加となります。なお、片方だけの適用も可能です。
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マルチステークホルダー方針

従来は資本金10億円以上かつ従業員1千人以上を有する法人のみが対象であったマルチステークホルダー方針の公表及び届出ですが、税制改正により対象法人の範囲が拡大しております。

|変更内容

税制改正後は、資本金の額には関係なく、常時使用する従業員等が2千人超の法人については、賃上げ促進税制の適用を受けるためには、マルチステークホルダー方針の公表及びその旨の届け出が必要となりました。また、資本金が10億円以上かつ常時使用従業員等が1千人以上の法人も引き続き対象となります。

マルチステークホルダー方針の公表期限ですが、「適用事業年度終了の日の翌日から45日を経過する日まで」から「適用事業年度終了の日まで」に変更されております。また、マルチステークホルダー方針の様式が変更されております。

様式の変更点ですが、インボイス制度導入に伴い消費税免税事業者との取引関係も取引先への配慮すべき事項となっております。

 

|適用除外

適用対象法人は、マルチステークホルダー方針の公表及び届出手続きにおいて、パートナーシップ構築宣言ポータルサイトへパートナーシップ構築宣言を掲載します。

下請け企業への対応ですが、もし発注側である対象法人が下請け法に違反した場合は、パートナーシップ構築宣言ポータルサイトにおける宣言企業から除外されます。結果、当該法人は賃上げ促進税制が適用できなくなることが想定されます。

 

確定申告について

法人が賃上げ促進税制の適用を受ける場合の確定申告書ですが、別表六(二十四)及び別表六(二十四)付表一を使用します。別表の記入方法等について改正事項を中心に説明いたします。

|別表の記入の仕方

別表六(二十四)付表一から記入を行います。(調整)雇用者給与等支給額・(調整)比較雇用者給与等支給額の計算を「1」から「12」において行います。判定の基となる継続雇用者給与等支給額及び継続雇用者比較給与等支給額の計算は「13」から「19」において行います。出向負担金や雇用安定助成金額を受け取っているときは控除計算に注意します。上述の(a)(b)をあてはめますと下記のようになります。

また、付表では上乗せ措置の比較教育訓練費の計算を「20」から「24」において行います。

別表六(二十四)の記入ですが、付表で求めた数値を指定の箇所に転記します。「20」の控除対象雇用者給与等支給増加額は、「6」の雇用者給与等支給増加額と「10」の調整雇用者給与等支給増加額のうち少ない金額を記入します。

また、「7」「10」「14」「18」にて各増加割合を算出し、「14」の継続雇用者支給額増加割合が3%以上であれば税額控除の適用があります。控除率ですが、大企業の場合は第1項適用の場合の欄に記入します。「14」が4%以上5%未満のときは 0.05 を、5%以上7%未満のときは 0.1 を、7%以上のときは 0.15 を「29」に記入します。

上乗せ措置ですが、教育訓練費については「18」が10%以上(適用事業年度に金額があり、前事業年度がゼロの場合も含む)であり、かつ「19」が0.05%以上のときは「30」に 0.05 を記入します。

プラチナくるみん又はプラチナえるぼしの認定を受けているときは「31」に 0.05 を記入します。

「32」の控除限度額は、「22」差引控除対象雇用者給与等支給増加額に 0.1 と「29」「30」「31」の控除率を合算した率を乗じて算出します。

最終的には法人税の20%相当額と比較して少ない金額が税額控除金額となります。

|添付書類

確定申告書には上記の別表の他に適用額明細書を添付します。また、マルチステークホルダー方針が要件とされる法人の場合は、マルチステークホルダー方針を公表した旨の届出に対する受理通知書の写しも添付します。

賃上げ促進税制は当初申告要件がありますので、申告を失念してしまった場合は、後から更正の請求により賃上げ促進税制の適用を受けることはできません。

 

まとめ(Conclusion)

賃上げは他の税額控除にも影響を与えます。所得が黒字で、設備投資要件を満たさない大企業は、継続雇用者の給与等支給額の増加率が1%以上でない場合、研究開発税制など一定の税額控除制度の適用がなくなりますので注意が必要です。

Promoting wage increases also affect other tax credits. Large companies with positive income which don’t meet the capital investment requirement won’t apply to the research and development tax credit or other tax credit when they doesn’t pay salary 1% or more to continuing employees compared to the previous fiscal year.

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