退職金を受け取った場合には、原則、退職金から退職所得控除額を除いた金額の2分の1相当額が退職所得として課税されます。但し、勤続年数が5年以下の場合や同年に2か所から受け取った場合などは計算方法が異なります。iDeCoの老齢一時金を受け取った場合も含めて解説いたします。
目次
退職所得金額の計算方法
退職所得の範囲ですが、会社から受け取る退職金の他にも、確定給付企業年金法や確定拠出企業年金法の規定に基づき支給を受ける一時金なども含まれます。
その他には小規模企業共済制度に基づく一時金で、65歳以上の者の契約解除によるもの等があります。
|原則計算方法
退職所得の金額は、原則として次のように計算されます。
(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2
収入金額は源泉徴収される前の退職金額です。
退職所得控除額ですが、勤続年数が20年以下のときは
勤続年数 × 40万円 (最低80万円)です。
勤続年数が20年を超えるときは
勤続年数 × 70万円 + 800万円 となります。
なお、勤続年数の1年に満たない期間は1年に切り上げます。また、勤続年数には休職期間も含まれます。
|勤続年数5年以下における計算
特定役員退職手当等や短期退職手当等に該当するときは、退職所得金額の計算方法が異なります。
・特定役員退職手当等
特定役員退職手当等とは、法人の役員等で勤続年数が5年以下である者が、支払者から役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものをいいます。
この場合の退職所得金額の計算ですが、2分の1計算は行わず、退職金額から退職所得控除額を差し引いた額が退職所得の金額になります。
・短期退職手当等
短期退職手当等とは、勤続年数が5年以下の者に対する退職金で特定役員退職手当等に該当するものを除きます。
退職所得金額の計算は、収入金額から退職所得控除額を差し引いた額が3百万円を超える場合は、その超える部分については2分の1計算を行いません(3百万円までは2分の1計算)。
|源泉徴収税額の計算
退職所得に係る源泉徴収税額の算出方法は、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無により異なります。
・提出している場合
退職所得の金額を上記計算式により算定し、超過累進税率を適用して計算した税額となります。退職金の支払者がその支払の際に、退職所得の金額に応じた所得税及び復興特別所得税を源泉徴収する為、受給者は原則確定申告は不要となります。
・提出していない場合
退職金等の支払金額の20.42パーセントの所得税額及び復興特別所得税額が源泉徴収されます。この場合、受給者が確定申告を行うことにより所得税額等が精算されることとなります。
退職所得は分離課税で超過累進税率が適用されます。医療費控除などの適用を受けるために確定申告を行う場合は、退職金から適正税額が源泉徴収されていたとしても、退職所得を申告書に記載する必要があります。
二箇所から退職金を受け取ったとき
二箇所の勤務先等から退職金を受け取った場合において、それぞれの勤続期間に重複している期間があるときは、支給時期によっては退職所得控除額の調整計算を行う必要があります。
|同一年に2以上の退職手当等
同じ年に2以上の退職金を受け取った場合は、これらの退職手当等の勤続期間の内、最も長い期間を勤続期間とし、重複しない期間があるときは、その重複しない期間を加算します。
<設例①>
X31年中にA社とB社から退職金を受け取りました。A社における勤続期間はX01年4月1日からX31年3月31日(30年)で、B社における勤続期間はX15年10月1日からX31年9月30日(16年)です。
この場合、長い方の勤務期間はA社の30年で、またX31年3月31日からX31年9月30日の期間は重複していませんので、6ヶ月を加算することができます。結果、勤続年数は31年(端数切上げ)となります(退職所得控除額は1570万円)。
|過去4年以内に退職手当等
その年に退職金を受け取った場合で、その年の前年以前4年以内に別の退職金を受け取っているときは、勤続期間の重複期間について退職所得控除額の調整計算を行います。計算式は(1)マイナス(2)の金額となります。
(1)その年の退職手当等の勤続年数につき計算した退職所得控除額
(2)重複部分の勤続年数を勤続年数とみなして計算した退職所得控除額
※(1)は1年未満の端数を切上げ、(2)は1年未満の端数を切り捨てます。
<設例②>
当年R7年にC社から退職金を受け取りました。また、R5年にはD社からも退職金を受け取っております。C社の勤続年数は24年4ヶ月で、D社における勤続年数は15年8ヶ月です。退職金額はC社が1千5百万円、D社が7百万円です。
当年の前年以前4年内に退職金を受け取っている為、勤続期間の重複部分の調整計算が必要となります。C社の勤続年数は25年(切上げ)ですので退職所得控除額は、800万円 +(25年-20年) × 70万円=1150万円となります。一方、重複期間に係る退職所得控除額は15年(切捨て)で600万円となります。従いまして、退職所得金額は、
{1500万円-(1150万円-600万円)}×1/2= 475万円
となります。
【前の退職手当等がその退職所得控除額に満たないとき】
設例②におけるD社の退職金が5百万円としますと、退職金が退職所得控除額6百万円を下回ることとなります。この場合の重複期間の計算は収入金額を40万円で割った数字となります。金額をあてはめますと次のようになります。
500万円(収入金額)÷ 40万円 = 12.5年 → 12年(重複期間)
これは前の退職手当等の収入金額が800万円以下のときの計算方法です。なお、前の退職手当等の収入金額が800万円超の場合の計算式は、
(収入金額-800万円)÷ 70万円 + 20年 = 重複期間
となります(1年未満の期間は切り捨てます)。
iDeCoなどの老齢一時金を受け取ったとき
iDeCoなどの老齢一時金を受け取った場合、加入年数に応じ退職所得控除の適用があります。退職金と老齢一時金を同年に受け取ったときは、勤続年数と加入期間のうち長い方の期間により退職所得控除額を算定します。また、重複していない期間については二か所から退職金を受け取ったときと同様に加算することができます。
|退職金の後に老齢一時金
iDeCoなど確定拠出年金に係る老齢一時金を受け取った場合、受け取った年の前年以前19年以内に他の退職手当等を受け取っているときは、勤続年数の重複期間について調整計算を行います。
老齢一時金を受け取る最終年齢は75歳ですので、60代で定年により会社を退職される方は基本的に調整計算の対象となります。
なお、退職金の受取時に退職所得控除額の未利用分がある場合は、上述の【前の退職手当等がその退職所得控除額に満たないとき】の計算式により年数を算出し、入社日から算出した年数を経過した日からiDeCoの加入日まで遡った期間が重複期間※となります。
※実際の重複期間とは異なりますので注意が必要です。
|老齢一時金の後に退職金
一方、iDeCoの老齢一時金を受け取った後に会社から退職金を受け取った場合ですが、退職金支給年の前年以前4年内にiDeCoの老齢一時金を受け取っているときは、重複期間の調整計算を行います。即ち前回受取時からの期間が5年以上空いていれば重複期間の調整計算は不要となり退職所得控除額をフル活用することができます。
但し、令和7年度税制改正により令和8年1月1日以後にiDeCo等の老齢一時金の支払いを受け、その後退職金を支払いを受ける場合の重複期間については、前年以前4年内から前年以前9年内となる見込みです。
まとめ(Conclusion)
退職所得は会社の勤続期間やiDeCoの加入期間だけでなく、退職手当等の受取時期により税金計算が異なることとなります。税負担を考慮して年金で受け取る場合は、国民健康保険料や介護保険料の計算対象となることも加味する必要があります。
The tax calculation of retirement income is different depending not only on the length of company service and the period of iDeCo’s membership, but also on the timing of receiving retirement allowances and other benefits.
If you choose to receive a retirement payment in the form of a pension to reduce tax burden, it is important to take into consideration that it is also subject to national health insurance premiums and long-term care insurance premiums other than taxes.