将来リスクに備えるための保障だけでなく、節税の目的にも利用される生命保険ですが、全額費用とはならず資産として計上しなければならない場合があります。養老保険と定期保険の仕訳処理等を中心にご紹介いたします。
目次
養老保険の取扱い
まずは養老保険から取り上げてまいります。養老保険は死亡保険と生存保険が混合した保険です。法人が契約者であり、役員又は使用人が被保険者の場合を前提としております。
|仕訳と税務①
法人が支払う保険料の経理処理方法と税務上の取扱いについてですが、死亡保険金と生存保険金のそれぞれの受取人が誰なのかにより異なります。具体的には下記の4つのパターンとなります。
パターン | 死亡保険金の受取人 | 生存保険金の受取人 |
(a) | 法人 | 法人 |
(b) | 被保険者の遺族 | 被保険者 |
(c) | 被保険者の遺族 | 法人 |
(d) | 法人 | 被保険者 |
パターン別の経理処理は次のようになります。
(a)の場合:全額を保険積立金として資産計上します。
【仕訳】 保険積立金 ●●円 現預金 ●●円
保険事故や契約解除等が無い限り、支払った保険料は損金に算入されません。
(b)の場合:全額を役員又は従業員への役員報酬又は給与として計上します。
【仕訳】 役員報酬(給与) ●●円 現預金 ●●円
被保険者が役員のときですが、毎月の支払保険料の金額が一定であれば、定期同額給与に該当することになり、損金算入が認められます。
(c)の場合:2分の1を経費計上し、2分の1を資産計上します。
【仕訳】 福利厚生費 ●●円 現預金 ●●円
保険積立金 ●●円
ハーフタックスプランと呼ばれる形態ですが、専ら特定の役員又は従業員のみを対象としているときは、福利厚生費ではなく役員報酬又は給与として計上します。その場合は源泉徴収の対象となります。
(d)の場合:2分の1を福利厚生費とし、2分の1を役員報酬又は給与として計上します。
【仕訳】 保険料 ●●円 現預金 ●●円
役員報酬(給与) ●●円
ハーフタックスプランの逆の形態ですが、理論上は支払保険料の全額が損金算入可能ですが、過度な節税対策と認定されるリスクが全くないとは言えない為、生存保険金は個人名義で契約することも考慮した方が良いかもしれません。
被保険者である役員又は従業員が満期保険金を受け取った場合ですが、当該収入は一時所得となります。なお、一時所得の計算における収入を得るために支出した金額については、給与課税された部分のみとなります※。
※福利厚生費として法人が負担した部分は含まれません。
|普遍的加入条件
支払保険料を給与扱いされない為には、全従業員が生命保険加入の恩恵に浴する機会が与えられていることが求められます。これを普遍的加入といいます。
但し、全従業員が加入できなかったり、保険金額に格差がある場合であっても、社内規程において例えば勤続年数3年以上の従業員を対象とするなどの合理的な基準があれば、普遍的加入とみなされます。一方で管理職以上のみを対象とするというような場合は認められない可能性が高いです。
また、同族会社の場合は注意が必要です。役員又は従業員の大半が同族関係者である場合は、上記のような規定があったとしても福利厚生費の部分は給与の扱いとなります。
|定期付養老保険
定期付養老保険とは養老保険に定期保険が付与された保険をいいます。保険料が生命保険証券等において養老保険の部分との定期保険の部分に明確に区分されているか否かにより経理処理が異なります。
区分されている場合は、各保険料について各々の取扱いに基づき経理処理を行います。区分されていない場合は、その保険料すべて養老保険の取扱いに基づき経理処理を行います。
その他の経理処理についてですが、主契約保険料の他、特約保険料の支払いについては経費計上します。契約者配当があった場合は、雑収入として計上し益金に算入されます。但し、保険積立金として資産計上しているときは、資産計上額から控除することもできます。
定期保険の取扱い
定期保険とは、被保険者の死亡を保険事故とする生命保険です。保険料は掛捨てとなる為、保険料の金額は期間の経過に応じて損金算入※されます。なお、第三分野保険の保険料についても同様の取扱いとなります。
※契約日が2019年7月8日以降の契約で、保険料のうちに相当多額の前払部分の保険料が含まれている場合は取り扱いが異なります。
|仕訳と税務②
定期保険の保険料を支払った時の仕訳ですが、死亡保険金の受取人別に下記に記載致します。
・受取人が法人の場合
【仕訳】 保険料 ●●円 現預金 ●●円
・受取人が被保険者の遺族の場合
【仕訳】 福利厚生費 ●●円 現預金 ●●円
・受取人が被保険者の遺族の場合で特定の役員等のみを対象としているとき
【仕訳】 役員報酬(給与) ●●円 現預金 ●●円
これらは、最高解約金返戻率が50%以下の場合の取扱いとなります。保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合は、一定の金額を前払保険料として資産計上する必要があります。詳細は次項をご覧ください。ます。
|多額の前払保険料があるとき
定期保険及び第三分野保険の保険料のうち、契約日が2019年7月8日以降の保険契約については、契約者が法人、被保険者が役員又は従業員、保険期間が3年以上かつ最高解約返戻率が50%超のものは、最高解約返戻率の割合により区分をします。そして区分ごとの資産計上期間及び取崩期間において異なる経理処理を行うこととなります。
具体的な最高解約返戻率による区分と資産計上期間・資産計上額・取崩期間は次のようになります。
(1)最高解約返戻率50%超70%以下の区分
・資産計上期間:保険期間開始日から保険期間の40/100相当期間を経過する日まで
・資産計上額:当期分支払保険料×40%(残額は経費計上)
・取崩期間:保険期間の75/100相当期間を経過後から保険期間終了日まで
取崩期間においては、支払保険料を全額経費計上するとともに、これまで資産計上した金額を取崩期間の経過に応じて均等に取り崩します。
※年換算保険料とは、保険料総額を保健期間の年数で除した金額をいいます。判定は事業年度毎に行います。
(2)最高解約返戻率70%超85%以下の区分
資産計上期間:(1)と同じ期間
資産計上額:当期分支払保険料×60%(残額は経費計上)
取崩期間:(1)と同じ期間
(3)最高解約返戻率85%超の区分
資産計上期間:開始の日から最高解約返戻率となる期間の終了日まで
上記の期間が5年未満の場合は5年を経過する日までの期間となります。
資産計上額:当期分支払保険料 × 最高解約返戻率 × 70%(残額は経費計上)
保健期間開始日から10年経過日までは70%ではなく90%となります。
取崩期間:解約返戻率金相当額が最も高い金額となる期間経過後から保険期間終了日まで
経理処理方法ですが、①当事業年度に資産計上期間がある場合は、支払った保険料のうち資産計上額として定められた金額を前払保険料として資産計上し、残りを保険料として経費計上します。②資産計上期間がない場合は、支払った保険料の全額が損金算入されますので保険料として経費計上します。③当事業年度に取崩期間がある場合は、支払った保険料に加えて、それまで資産計上した累計額を取崩期間の経過に応じて均等に取崩した金額のうち当事業年度に対応する金額を経費計上します。
契約変更があった場合
最後に契約者の名義変更をした場合の取扱いについてですが、法人名義から個人名義へ変更した場合と、法人間の名義変更があった場合について解説いたします。
|法人から個人への変更
被保険者が役員等で保険金受取人を法人とする生命保険を、役員等へ退職金を支給する為に契約者を法人から役員等へ名義変更した場合は、解約返戻金相当額が退職金として支給されたものとして取り扱われます。
法人側の経理処理ですが、変更時までに資産計上した金額を取崩します。資産計上額と評価額である解約返戻金相当額との差額については、雑収入又は雑損失として経理処理します(下記は雑損失を計上する場合の仕訳です)。
【仕訳】 退職金 ●●円 現預金 ●●円
雑損失 ●●円 保険積立金 ●●円
なお、2021年7月1日以降の名義変更については、解約返戻金相当額が資産計上額の70%未満である場合は、その時における資産計上額が評価額となります。
退職金については、過大役員退職金に注意が必要です。不相当に高額な金額については損金不算入となります。また、株主総会決議だけでなく退職金規程等を設けて受取保険金を退職金の原資に充てる旨の記載をすることが望ましいでしょう。
|法人から法人への変更
被保険者である役員又は従業員が関係会社等へ転籍となった場合において、契約者及び受取人を転出先の法人へ名義変更したときの経理処理は次のようになります。
【転出元法人】
保険契約の権利を解約返戻金相当額で譲渡したものとして、資産計上額を取り崩すとともに差額を雑収入又は雑損失に計上します。もし、無償であった場合は解約返戻金相当額は寄附金として計上します。寄附金は、法人間に完全支配関係がある場合には全額損金不算入となります。
【転出先法人】
解約返戻金相当額を保険積立金などの科目にて資産計上します。もし、無償で譲り受けた場合は、貸方科目は雑収入などの科目で計上します。この場合における雑収入は受贈益となる為、法人間に完全支配関係があるときは全額益金不算入となります。
なお、保険契約の権利に係る譲渡損益については、グループ法人税制の譲渡損益の繰り延べは適用しないものと考えられます。
まとめ(Conclusion)
ご紹介しました通り、生命保険に係る保険料は契約内容と契約日で経理処理方法が異なります。また、受取人が誰なのかによっても税金計算の結果に影響を及ぼす為、取扱いについては事前確認をしておくことが大切です。
As we introduced, the accounting method for life insurance premiums differs depending on the policy contents or the policy date. Also, it is crucial to confirm in advance the tax treatment because the result of tax calculation will be affected by who the beneficiary is.