消費税の計算方法には、一般課税と簡易課税がありますが、一定の金額を超える特定の資産を購入した場合は、取得した課税期間の翌課税期間以後、免税事業者となることや、簡易課税による計算ができなくなるケースがあります。
目次
調整対象固定資産の取扱い
課税事業者が、一定の課税期間中に調整対象固定資産を取得し、かつその課税期間において一般課税による申告を行った場合は、基本的に取得した課税期間以後3年間は、消費税の納税義務が免除されません。
|調整対象固定資産の範囲
まずは調整対象固定資産の意義についてですが、建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両運搬具、工具器具備品、鉱業権その他の資産で、一の取引単位に係る税抜対価の額が1百万円以上のものをいいます。なお、棚卸資産は含まれません。
判定については、通常一組又は一式をもって取引の単位とされるものは、一組又は一式で行うこととなります。例えば工具器具備品であれば、その内容により1個、1組又は1揃いで行います。なお、固定資産の取得価額に含めることとなる引取運賃などの付随費用は、当該判定においては含めずに判定します。
|届出の提出制限①
課税事業者が、消費税申告が強制される一定の課税期間中に調整対象固定資産を取得し、かつその課税期間において一般課税による申告を行った場合は、翌課税期間以後も一般課税による申告が強制されますが、具体的には次のケースが該当します。
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- 課税事業者選択届出書を提出し、2年間の継続適用中に調整対象固定資産の仕入れ等をして一般課税で申告した場合
- 新設法人が基準期間のない課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等をして一般課税で申告した場合
- 特定新規設立法人が基準期間のない課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等をして一般課税で申告した場合
- 高額特定資産の仕入れ等につき一般課税による申告を行った場合で、調整対象固定資産の仕入れ等をして一般課税で申告したとき
これらの場合に該当しますと、調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ消費税課税事業者選択不適用届出書や消費税簡易課税制度選択届出書を提出することはできません。
基準期間における課税売上高が1千万円未満であっても納税義務は免除されず、また簡易課税による計算を行うこともできません。
|特例計算
調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合は、届出書の提出制限とは別に、調整対象固定資産に係る仕入税額控除の特例計算に気を付ける必要があります。
・課税売上割合が著しく変動した場合
調整対象固定資産の仕入税額計算を、①全額控除 ②一括比例配分方式 ③個別対応方式の共通対応 のいずれかの方法により行い、その後、第三年度の課税期間の末日までその資産を保有し、通算課税売上割合が著しく変動しているときは、第三年度の課税期間において調整税額を加算又は控除します。
・調整対象固定資産を転用した場合
調整対象固定資産の仕入税額計算を個別対応方式により行っており、その資産につき課税資産の譲渡等のみ要するものとして控除し、その後3年以内に非課税資産の譲渡等にかかる業務に転用したときは、転用した課税期間における控除対象仕入税額から調整税額を控除します。
逆に非課税資産の譲渡等のみ要するものとして除外し、その後3年以内に課税資産の譲渡等にかかる業務に転用したときは、転用した課税期間における控除対象仕入税額に調整税額を加算します。
高額特定資産の取扱い
調整対象固定資産と似たような規定としまして、高額特定資産があります。こちらは調整対象固定資産のケースよりも幅広く届出書の提出制限がされております。
|高額特定資産の範囲
高額特定資産とは、棚卸資産又は調整対象固定資産で、一の取引単位に係る税抜対価の額が1千万円以上のものをいいます。国内取引だけでなく課税貨物の保税地域からの引取りも含まれます。
また、購入だけでなく建物などを自ら建設した場合においても、その建設費用が1千万以上となるときは、自己建設高額特定資産として同様に3年縛りの適用を受けることがあります。
|届出の提出制限②
高額特定資産の仕入れ等をして一般課税により申告した場合は、高額特定資産の仕入れ等を行った課税期間の翌課税期間からその高額特定資産の仕入等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の各課税期間においては、免税事業者とはなれず、簡易課税を選択することもできません。
例えば一般課税による申告を行う3月決算法人が、令和7年3月期に高額特定資産の仕入れ等を行いますと、その後簡易課税制度選択届出書を提出できるのは令和9年3月期となり、令和10年3月期から簡易課税による計算を行うことができるようになります※。
※基準期間における課税売上高が5千万円以下の場合に限ります。
調整対象固定資産の規定のように課税事業者を選択した場合などに限定されない為、注意が必要です。もし、課税期間の初日から高額特定資産の購入の日までの間に簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その提出は無かったものとみなされます。
金地金の取扱い
令和6年度税制改正により、課税事業者が令和6年4月1日以後に金地金の仕入れ等を行う場合につきましても、一定期間届出書の提出が制限されることとなっております。
|税制改正の内容
課税事業者が簡易課税や2割特例の適用を受けない課税期間中に金又は白金の地金等の仕入れ等を行い、仕入れ等の金額の合計額が2百万円以上である場合には、仕入れ等を行った課税期間の翌課税期間から、その仕入れ等を行った課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の各課税期間においては、免税事業者とはなれず、簡易課税を選択することもできません。
高額特定資産の仕入れ等を行った課税事業者が、基準期間における課税売上高が1千万以下となった場合は、「高額特定資産の取得等に係る課税事業者である旨の届出書」を税務署へ提出しますが、金などの仕入によるときは「③金地金等の仕入れ等」の欄に記入をします。
購入した課税期間は一般課税で申告をして還付を受け、翌課税期間に売却して簡易課税によるみなし仕入れ率を用いて仕入控除を受けるという節税スキームは、今回の改正により厳しくなりました。
|その他の税金の取扱い
個人の方が金地金を売却した場合の所得税の計算ですが、金地金の譲渡による所得は総合譲渡所得となります。取得から譲渡までの期間が5年以下であれば短期総合譲渡所得となり、5年超であれば長期総合譲渡所得となります。総合譲渡所得計算には50万円の特別控除があり、長期総合譲渡所得であれば特別控除後の金額を2分の1します。
金地金を贈与した場合又は相続により取得した場合の評価額ですが、金販売業者が公表している買取価格によります。なお、相続開始日に公表価格がないときは、最も近い日の相場を用います。
まとめ(Conclusion)
消費税の有利判定を行う際は、単年度だけでなく、その後の事業年度における税負担額も考慮に入れて計算を行い、届出書の提出について意思決定することが大切です。
When selecting the method of consumption tax calculation, it is important to consider tax burden not only the fiscal year but also subsequent years and make determination whether filing the application regarding consumption tax calculation method or not.