同族会社の社長が土地を所有しており、当該同族会社が建物を建てる目的でその土地を貸し付けたときは、権利金の授受の有無やその金額によっては税務上問題となることがあります。同族会社同士の取引の場合も含めて解説いたします。
目次
個人地主の税務
不動産賃貸業を営んでいる個人事業主が法人成りをし、建物のみを同法人へ移転するケースなどにおいては、借地権の設定について気を付ける必要があります。まずは地主である個人の税務上の取扱いを見てまいります。
|権利金等の取扱い
借地人である法人から権利金を受け取った場合、収受した権利金は譲渡所得又は不動産所得となります。いずれの所得になるかの判定ですが、権利金の金額がその土地の更地価額の5/10の金額を超える場合は譲渡所得となります。なお、権利金の他に保証金等を受け取っているときは、当該保証金等に係る特別の経済的利益を加算して判定を行います。
判定式:権利金+特別の経済的利益 > 土地の更地価額 × 5/10
※特別の経済的利益の金額は、保証金等 ×(1-複利原価率)により求めます。
譲渡所得はその年の1月1日における土地の所有期間が5年以下の時は分離短期譲渡所得となり、5年超の時は分離長期譲渡所得となります。
※税率は分離短期が39.63%、分離長期が20.315%です(復興税と住民税を含む)。
譲渡所得となる場合の取得費ですが、下記の算式により求めた金額となります。
特別の経済的利益がある場合は同金額を権利金に加算します。底地価額ですが、不明な場合は地代年額の20倍の金額とします。なお、上記算式の金額に代えて、権利金の額の5%相当額を取得費とすることもできます。
判定の結果、譲渡所得に該当しない場合は不動産所得となります。不動産所得に係る所得計算ですが、総収入金額には権利金を計上しますが、特別の経済的利益は計上しません。なお、土地の取得費は必要経費となりません。
個人が法人に著しく低い価額で資産を譲渡しますと、時価で譲渡したものとして原則譲渡所得課税が行われます。しかし、土地の賃貸に係る借地権の設定は、譲渡所得の基因となる資産の移転ではない為、課税はされないこととなります。
「地代」についてですが、受領した地代は不動産所得となります。上記の権利金の判定は関係ありません。なお、受取地代が適正金額よりも少なかったとしても、個人地主の場合は、その差額について認定課税は行われません。地代の適正金額ですが、一般的には固定資産税及び都市計画税の3倍程度とされておりますが、近隣地域の相場等により異なる場合があります。
|土地・株式の評価
借地権設定をした場合における土地及び保有する同族会社の株式の評価ですが、土地は貸宅地として借地権の部分を除いた評価額となり、株式は借地権価額が純資産価額に含まれることとなりますが、権利金の授受がない場合は次のようになります。
(1)無償返還届出書を提出している場合
使用貸借扱いとならない一定の地代を支払っているときは、土地については貸宅地として自用地評価額の80%となり、株式の評価は借地権として自用地評価額の20%を計上します。
権利金だけでなく地代も支払わない使用貸借のときは、土地は自用地評価となり、株式の評価は借地権についてはゼロとなります。
(2)無償返還届出書を提出していない場合
土地の賃貸借契約書に無償返還の旨の記載がなく、金銭の授受も行われていない場合は貸宅地の扱いとなり、株式評価は借地権価額を計上することとなります。
法人借地人の税務
続きまして借地人である法人側の税務上の取扱いを見てまいります。
|権利金の取扱い
権利金を支払った場合は、支払金額を借地権として資産計上します。但し、支払金額が権利金の適正価額に満たない場合には借地権の認定課税が行われます。
適正価額と支払金額との差額は、地主から借地人へ寄付があったものとされる為、受贈益として課税されると同時に資産計上することとなります。
(借方)借地権 ●●●円 (貸方)受贈益 ●●●円
相当の地代を支払っている場合や、土地の無償返還に関する届出書を連署により税務署へ提出している場合は、借地権の認定課税はされません。
|地代の取扱い
地代についてですが、支払金額が相場の賃借料よりも少ない金額であったとしても地代の認定課税は行われません。法人の取引は時価で計上することになりますが、賃借料の時価と実際に支払う賃借料の差額は、受贈益として益金に算入される一方で、同額が支払賃借料として損金に算入されるためです。
この場合、下記のような仕訳を行うこととなります。
(借方)支払賃借料 ●●●円 (貸方)受贈益 ●●●円
ご参考までに認定課税が行われるか否か判定するための簡易フローチャートを掲載致します。次の項目で取り上げる法人地主の認定課税の判断に役立つかと思います。
地主が法人の場合
ここでは地主側も法人である場合の、地主及び借地人のそれぞれの税務上の取扱いについて、設例を用いて解説いたします。例えば、A社が保有する土地をB社が建物を建てる目的で賃借し、B社はA社に権利金と賃貸料を支払っているものとします。金額は次のようになります(数字は架空のものです)。
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- 土地の時価:8000万円
- 土地の簿価:5000万円
- 借地権割合:60%
- 支払権利金:4000万円
- 年間賃借料:192万円
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|法人地主側の計算
権利金認定の判定をする際には、支払地代を確認します。「相当の地代」が支払われている場合は、権利金の支払いがない場合や収受した権利金の額が適正金額よりも少ない場合であっても、権利金の認定課税は行われません。相当の地代は次の計算式により求めます。
計算式:(土地の更地価額-収受した権利金の額) × 6%
※土地の更地価額は相続税評価額等によることができます。但し、相続税評価額等とした場合は収受した権利金も改訂します。
上記の例では、相当の地代は240万円と見積もることができます。実際の賃借料は192万円で相当の地代の金額に満たない為、権利金を認定をすることとなります。
【認定権利金】
適正な権利金の価額から受け取った権利金の金額を控除した金額は、借地人である法人への贈与費用(寄附)という取扱いになります。この例では権利金の金額は4800万円※が適正金額と計算されますので、地主であるA社は、適正金額と実際に受け取った金額との差額800万円についても、権利金収入として計上することとなります。
※計算式:8000万円 × {1-(192万円 ÷ 480万円)} = 4800万円
※上記480万円は8000万円×6%です。権利金収入を計算する際の相当地代は収受した権利金を控除しません。
この取引を仕訳で示しますと、
(借方)現預金 4000万円 (貸方)権利金収入 4800万円
(借方)寄附金 800万円
となります。この差額の金額(認定権利金)は寄附金扱いですので、寄附金の損金算入限度額を超える部分は損金不算入となります。結果、実際に収受していない金額についても課税されることとなります。
ご参考までに権利金と地代の関係を表した図を掲載いたします。
【土地簿価一部損金算入】
借地権の設定により、土地の価額が設定前の半額以下になったと認められるときは、土地の帳簿価額のうちの一部の金額を損金に算入することができます。上記の例ですと、60%の価額が減少することとなりますので、3000万円※が損金算入されます。損金に算入する金額は次の算式により求めます。
※5000万円 × 4800万円 ÷ 8000万円 = 3000万円
※借地権の金額は受け取った権利金と認定権利金の合計です。
|法人借地人側の計算
借地人であるB社は、地主であるA社から800万円の寄付を受けたこととなり、借地権は支払った4000万円ではなく、4800万円を資産計上します。寄附分は受贈益であるため課税されることとなります。
(借方)借地権 4800万円 (貸方)現預金 4000万円
(貸方) 受贈益 800万円
土地の無償返還に関する届出書が遅滞なく税務署へ提出されているときは、権利金と借地権の認定課税は行われません。
|地代の認定
設例とは別のお話となりますが、同族会社同士の賃貸借等で次の要件を満たすときは、権利金の認定課税は行われないものとされております。
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- 権利金を収受していない又は特別の経済的利益を受けていない
- 契約書において将来借地人が無償で返還することを約している
- 土地の無償返還届出書を連署にて税務署へ提出している
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但し、要件を満たす場合であっても受け取った地代の金額が相当の地代に満たないときは、地代の認定課税が行われます。次の算式により計算した金額は法人である地主から借地人への寄附金の扱いとなります。
計算式:土地の更地価額 ×6% - 実際の地代
※土地の更地価額は相続税評価額等によることができます。事業年度の途中の場合は月按分を行います。
法人地主が相当の地代を受け取るときは地代の認定はありませんが、その場合には、地代の金額を土地の価額の上昇に応じて改訂するか、改訂しないか、いずれかの方法を選択する必要があります。具体的には「相当の地代の改訂方法に関する届出書」を所轄税務署に提出します。
届出がない場合は改訂しない方法を選択したものとされます。なお、改訂する方法を選択したにもかかわらず地代の改訂を行わないときは、地代の認定課税が行われます。
まとめ(Conclusion)
借地権設定に係る権利金の認定の判定は複雑でわかりにくいですが、権利金と地代は代替関係にあることを踏まえて鑑みますと、ある程度理解が進むかと思います。また、その際は譲渡原価の計上処理漏れにも注意をしましょう。
When establishing the land leasehold right, it is very difficult to determine whether there are beneficiary or donation between lessor and lessee or not. However, if you know that payments of the right and rent on land are substitutional relationship, it will be easier to understand the tax treatment. Also, it would be better to pay attention to forget to post the acquisition costs of the land.