アメリカ国籍の方の外国税額控除の適用について【租税条約の取扱い】

アメリカ市民権のある方やグリーンカードを保有されている方が日本に居住されている場合、収入についてアメリカ及び日本で二重課税されたときの解消方法として外国税額控除制度があります。但し、適用方法については細心の注意が必要となります。

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外国税額控除制度

日本の居住者が一定の外国所得税を納付し、日本及び他国において課税され二重課税となるときは、これを排除する方法として確定申告による外国税額控除があります。

なお、日本国籍を有していない方で、日本における住所又は居所を有していた期間が5年を超える場合は永住者の扱いとなり、全世界所得について日本の所得税が課税されます。

|制度の内容

日本の外国税額控除の取り扱いですが、適用対象となる外国所得税を納付することとなる場合は、その金額のうち控除限度額に達するまでの金額をその年分の所得税から差し引くことができます。所得税の控除限度額は次の算式により求めます。

適用対象となる外国所得税は、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により個人の所得を課税標準として課される税となります。納税者が納付後に任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税などは除かれます。

なお、居住者の所得に対して課される外国所得税の額で租税条約の規定において外国税額控除をされるべき金額の計算に当たって考慮しないものとされるものなどは外国税額控除の対象となりません。

外国所得税が所得税の控除限度額を超える場合は、復興特別所得税、都道府県民税及び市町村民税から順次それぞれの控除限度額に達するまで控除します。

復興特別所得税の控除限度額

所得税の控除限度額の算式における所得税を復興特別所得税に置き換えた算式により求めた金額となります。

・都道府県民税の控除限度額

所得税の控除限度額 ×12%(6%)

・市町村民税の控除限度額

所得税の控除限度額 ×18%(24%)

()内は指定都市の場合の率です。いずれの場合も合計で30%となります。

 

|繰越控除

納付することとなる外国所得税を上記の控除限度額から控除し、控除しきれない金額(控除限度超過額)が生じた場合は、その金額を翌年以後3年間繰り越すことができます。

一方、外国所得税が所得税の控除限度額に満たない場合は、その満たない金額(控除余裕額)につきまして、その金額を翌年以後3年間繰り越すことができます。

従いまして、ある年に控除限度超過額が発生し、且つその前3年以内の繰越控除余裕額があるときは、その余裕額を使用した金額もその年分の外国税額控除額となります。逆にある年に控除余裕額が発生し、且つ前3年以内の繰越控除限度超過額があるときは、その超過額を充当した金額をその年分の外国税額控除額とすることができます。

復興特別所得税については繰越控除制度はありません。また、住民税の外国税額控除の適用は所得割額のみとなります。

 

|予定納税等

外国所得税に係る予定納税や源泉徴収税額についても要件を満たす場合は、外国税額控除の適用を受けることができます。適用時期ですが、原則これらを納めた年分において適用することとなりますが、継続適用を要件に確定申告を行った年分にまとめて適用することも可能です。

もし、予定納税額が確定申告による税額を上回り還付となる場合で、さらにその金額が繰越控除限度超過額をも超えているときは、その超えている金額は雑所得の総収入金額となります。

 

日米租税条約の確認

アメリカ市民権のある方及びグリーンカードを保有されている方は、例えアメリカ以外の国に居住していたとしても全世界の所得についてアメリカで課税され、アメリカに確定申告を行う必要があります。従いまして、確実に居住国との間に二重課税が生じます。これを回避するには、まずは租税条約を確認することが重要となります(租税条約は国内法よりも優先されます)。

|第23条3項の確認

日米租税条約ですが、第23条3項においてアメリカが市民権課税を行使する場合の独特の規定が設けられており、日本の課税が損なわれないようにされております。その主な内容について簡潔に説明しますと下記のようになります。

第23条3項の(a)

アメリカ市民である日本の居住者に対する日本の外国税額控除の適用に当たって考慮すべき外国所得税の範囲は、その者がアメリカ市民でないとした場合にアメリカが日本の居住者に対して本条約に基づいて課すことができる所得税額を限度とするとされております。

第23条3項の(b)

アメリカにおける外国税額控除の適用は、(a)の規定による外国税額控除を行った後の日本の所得税額をアメリカの所得税額から控除し、またその後日本の外国税額控除額は減額しないものとされております。

第23条3項の(c)

(b)の規定によりアメリカにおいて外国税額控除を認める場合には、(a)に規定する所得をアメリカの国外所得(日本の国内所得)とみなすとされております。

 

|その他の条文の確認

ここでは、収入(所得)の別に日米租税条約の内容を見てまいります。

・譲渡収益

第13条には、譲渡収益について規定されています。居住者が他国に所在する不動産を譲渡した場合、他国において課税することができることとされております。株式の譲渡については、一定の場合を除き居住地国においてのみ課税することができます。

・給与所得

第14条には、給料、賃金等の報酬について規定されています。居住者の居住地国における勤務に係る報酬については、居住地国のみが課税できるものとされてます。但し、他国における勤務に係る報酬については他国も課税を行うことができます。

注意点としまして、居住者が他国の法人の役員で、その資格により取得する報酬については他国において課税することができるものとされております。

・配当

第10条には、居住者が受け取る他国に所在する法人からの配当については、居住地国において課税することができるものとされております。但し、法人が所在する他国においても課税が認められており、その税率については、一定の場合を除き、2項(b)において10%を超えないものと定められております。

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確定申告の仕方

上記を踏まえまして、アメリカ国籍の方が実際に日本で確定申告を行う場合の手続きなどについて触れてまいります。

|給与収入の場合

日本で会社員として勤務し給与収入を得ている場合ですが、給与については勤務地判定により日本の国内源泉所得となります。また、日米租税条約第14条において居住地国勤務に係る給与収入は、居住地国のみが課税できるものとされております。

アメリカ市民である方は、アメリカでも課税され確定申告を行うこととなります。但し、日米租税条約第23条3項(a)の規定によりアメリカ市民であるが故に課税される所得税は、日本の外国税額控除の対象外とされている為、この給与所得に係る所得税については、日本の確定申告において外国税額控除の適用を受けることはできません。当該二重課税を解消するには、アメリカで外国税額控除の適用を受けることとなります。

|不動産譲渡収入の場合

不動産の譲渡収入についてですが、こちらは設例を使って説明を致します。

日本の居住者でありアメリカ国籍を持つAさんは、×1年6月にアメリカに所在する土地を譲渡しました。その後のAさんの確定申告は次のように行います。

翌×2年3月における日本の確定申告ですが、第一表及び第二表の他、当該土地の譲渡所得について第三表に記入し、かつ外国税額控除に関する明細書(調整国外所得金額として譲渡所得の金額を記入します)を添付し、控除余裕額を繰り越します。

アメリカ側では、×2年4月に確定申告を行い、納税をします。翌×3年3月の日本の確定申告ですが、第一表及び第二表の他、納付した外国所得税額及び繰越控除余裕額の使用について記入した外国税額控除に関する明細書を添付し、外国税額控除の適用を受けます。

アメリカに所在する土地の譲渡収入については、 日米租税条約第13条において他国の居住者であってもアメリカにおいて課税ができるものとされております。この場合、日米租税条約第23条3項(a)に基づき日本で外国税額控除の適用を受けることとなります。

|配当収入の場合

アメリカ国籍である日本の居住者が、アメリカの法人から配当金を受け取った場合ですが、当該配当金は日本アメリカ双方において課税することができます。但し、アメリカ非居住者については、日米租税条約第10条2項(b)において限度税率が10%と定められております(10%の源泉徴収がされます)。

日米租税条約第23条3項(a)により、外国税額控除の適用となるのはアメリカ市民ではない日本の居住者が課税されるアメリカの所得税に限られております。もし、アメリカの確定申告において10%を超える税率で課税が行われた場合、当該超過部分の税額は日本の外国税額控除の適用対象外です。

税率10%までのアメリカ所得税額のみが日本の外国税額控除の適用対象となります。

 

10%を超える部分の税額についてですが、第23条3項(c)により、アメリカで外国税額控除の適用を受ける為に必要な範囲に限り、アメリカの国外源泉所得とみなされます。第23条3項(b)に従って、まずは日本でアメリカ国内源泉所得に対する所得税について外国税額控除を適用し、次にその控除後の日本の税額について、アメリカで外国税額控除の適用することとなります。

 

まとめ(Conclusion)

ご紹介しました通りアメリカ国籍の日本居住者の方に対する税制は大変複雑です。特に多額の収入や資産がある方は、適正な申告納税を行う為には両国の税の専門家からのサポートは必須と言えるでしょう。

As we introduced, the taxation rule for residents in Japan who have the U.S. nationality is very complicated. Especially, for those who have a lot of revenue or assets, it is supposed that getting support from tax specialists in both countries is essential to file the tax returns properly.

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