海外進出をする場合の税務上の留意点

中小企業におかれましても多くの企業が海外進出をされておりますが、その場合には、国内のみの商売ではなかった税務リスクが発生します。そのリスクの概要と留意事項について解説いたします。

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海外進出形態による課税関係

海外進出の手段が駐在員事務所の開設か、在外支店の設立か、あるいは外国子会社の設立かにより課税関係は変わるため、適用される税金の制度も異なります。ここではそれぞれの特徴を説明いたします。

|駐在員事務所

活動範囲が市場調査や情報の収集であり、短期滞在者免税(滞在期間183日以下等の要件を満たす場合)の適用を受けている限り、現地で課税されることはありません。しかし、事務所がPE認定を受けますとPE課税が課されることとなります。

|在外支店

在外支店が獲得した所得については、現地国に納税する必要があります。また当該所得は日本の親法人の所得に合算して、日本でも申告する必要があります。但し、二重課税の部分については外国税額控除の適用を受けることができます。

|外国子会社

外国子会社が獲得した所得については、現地国に納税する必要がありますが、日本の親法人は、当該所得を日本で申告する必要はありません。しかしながら一定株数を保有する外国子会社との取引については、移転価格税制など様々な税金ルールが適用されることとなります。

 

国際取引に係る税制

外国に子会社を設立し、日本の親会社と取引を開始しますと様々な税制が適用されることとなります。具体的には移転価格税制、外国子会社合算税制、過小資本税制、過大支払利子税制などです。以下それぞれの制度の概要を説明いたします。

|移転価格税制

国外関連者(株式保有割合50%以上の外国子会社)との取引が低額輸出又は高額輸入とされた場合には、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなし、実際の対価との差額につき課税される制度です。

OECDから公表されたBEPS行動計画を受けて、税制改正が行われ移転価格文書の作成が義務化(①国別報告書②マスターファイル③ローカルファイル)されております。

①と②は連結総収入金額1千憶円以上の会社が対象で、③は海外子会社との取引金額50億円以上(無形資産取引の場合は3憶円以上)の会社が対象となっております。

ローカルファイルの作成・保存義務のことを同時文書化義務といいますが、上記に該当しない企業であっても移転価格調査時には提示・提出を求められる可能性があります。

独立企業間価格の算定方法ですが、実務上は取引単位営業利益法が採用されやすいかと思われます。この方法について簡単に説明しますと、該当企業(日本親会社又は外国子会社)が比較対象企業と比べて同じ程度の利益率であれば、海外に所得を移転しているとは認められないとする考え方です。

 

なお、移転価格税制の更正決定期間は6年と長くなっておりますので注意が必要です。

日本と外国との二重課税を解消するための手段として、事前確認制度もありますが、期間もコストもかかるため中小企業には向かない制度といえるでしょう。

|外国子会社合算税制

いわゆるタックスヘイブン税制と呼ばれるもので、外国子会社の所得を日本の親会社の所得とみなして合算して課税する制度です。

日本の居住者・内国法人に合計50%超の持分を保有されている外国法人(外国関係会社といいます)の株式の10%以上を保有している居住者又は内国法人が対象となります。

課税されるかどうかの判断は、外国関係会社の経済活動基準の内容により判断されます。

具体的には次の要件全て(ニ.と ホ.はいずれか)を満たしていれば受動的所得(配当等を指します)での合算課税(少額免除規定有り)となり、一つでも満たしていない場合は会社単位の合算課税となります(外国関係会社の租税負担割合が20%未満の場合に限ります)。

イ.事業基準 → 主たる事業が株式の保有等でない

ロ.実態基準 → 本店所在地国に事務所等を有する

ハ.管理支配基準 → 本店所在地国において自ら事業の管理等を行っている

ニ.所在地基準(注) → 主として所在地国で事業を行っている

ホ.非関連者基準(注) → 主として関連者以外の者と取引を行っている

 

(注)ホ.は、卸売業等の業種で、ニ.は、ホ.以外の業種が該当し、いずれかで判断します。

なおペーパーカンパニーの場合は、租税負担割合が30%未満であれば合算課税の対象となります。

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|過小資本税制

次の①②のいずれもが3倍を超える場合には、50%以上の株式を保有する外国親会社等への支払利子のうち、外国親会社等の資本持分の3倍を超える部分に対応する金額については、損金不算入とする制度です。

①国外支配株主等に係る平均負債残高÷国外支配株主等の資本持分

②総負債の平均残高÷自己資本の額

 

支払利子は損金に算入されるため、それに制限を課すための制度です。

気を付けなければならないのが、外国子会社が日本親会社に利子を支払う場合です。この場合は、現地における税法が外国子会社に適用され、例えば中国では上記の資本持分の「3倍」は、「2倍」となっております。

|過大支払利子税

関連者(持分50%以上保有)に対する支払利子のうち、下記算式により計算された金額は、損金不算入とする制度です。

損金不算入額=関連者純支払利子等の額ー(調整所得金額×50%)

 

関連者純支払利子等の額が1千万円以下の場合等は免除されます。また損金不算入額は7年間繰り越され、一定額まで損金算入されます。

なお過小資本税制にも該当するときは、比較して多い利子が損金不算入額となりますが、何よりも移転価格税制が優先されます。

 

二重課税排除の為の制度

外国で課税されているにもかかわらず、日本でも同じ所得について課税されることがあります。その場合には、二重に課税されることがないよう下記の救済措置的な制度があります。

|外国税額控除

外国で得られた所得について外国で課税された場合、処理方法としましては、損金算入方式税額控除方式(外国税額控除)があります。

損金算入方式は、外国税を損金経理することで、支払った外国税のうち日本の適用税率分のみが回収されることとなります。

税額控除方式は、法人税額のうち、所得金額のうちに国外所得の占める割合相当額が控除限度額となり、その金額が法人税額から控除されます。また、外国税額控除は3年間の繰り越しが認められています。

注意事項としましては、海外出向者に対して給与格差補填を実施している会社等は、共通経費としてその費用を国外所得計算に反映させなければならないということです。即ち計算によっては、国外所得金額が大幅に減少し、税額控除がとれないケースもあるのです。

|外国子会社配当金益金不算入

内国法人の持株割合25%以上、株式保有期間6ヶ月以上である外国法人株式に係る受取配当金のうち、その金額の95%を益金不算入とする制度です。

但し、配当に係る外国源泉税は損金不算入となります。

 

まとめ

税率の低い国に進出し、税金コストを抑えつつ収益拡大を図ることは理想ですが、進出前にはなかった様々な税金ルールが適用されることとなります。

進出する国にもよりますが、PE認定されますと、みなし計算で法人税が課されたり、駐在員の個人所得税が課されることが想定されます。

また、個人におきましても国外転出時課税制度の対象となり、譲渡所得課税が行われる可能性もあります。

日本国内だけでなく、外国の税法や租税条約を理解していないと思いもよらない多額の税金コストが生じることとなるため、国内及び現地の専門家のサポートは必須といえるでしょう。

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