従業員手当に関する税務上の取扱い【国内外取引を含む】

会社から従業員へ支給される様々な諸手当ですが、手当の内容や金額により課税・非課税の判定が異なります。課税対象となる場合は、源泉徴収が必要となるケースもあります。また、消費税の判定にも注意が必要です。

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手当の税務上の取扱い

会社から従業員へ支給される手当は、基本的に従業員側では給与所得となり、会社側は源泉徴収義務が生じます。また、金銭の支給に限らず、物又は権利その他経済的利益についても対象となります。

|収入金額

給与所得の計算における収入金額とは、その年において収入すべき金額とされております。従いまして、通常は給与支給日により判断することとなりますので、12月に従事し翌年1月に支給される給与については、翌年の給与所得となります。

金銭の場合はその金額が収入金額となりますが、物又は権利その他経済的利益につきましては、その物又は権利を取得したとき、その利益を享受するときにおける価額となります。

|経済的利益

給与所得の対象となる経済的利益ですが、例としましては次のようなものがあります。

    1. 土地や家屋等の貸与を無償又は低い対価で受けた場合で、通常支払うべき対価と実際に支払う対価との差額
    2. 金銭の貸付等を無利息又は通常の利率よりも低い利率で受けた場合で、通常の利率で計算した利息と実際に支払う利息との差額
    3. 上記以外の用役の提供を無償又は低い対価で受けた場合で、通常支払うべき対価と実際に支払う対価との差額

 

なお、これらの計上時期はそれぞれの利益を受けた各月ごとのその月の末日となります。ⅱ及びⅲについては1年を超えない一定期間ごとにその期間の末日とすることができます。

|非課税となるもの

通勤手当や通勤用の定期乗車券の支給で、1月当たりの金額が一定の範囲内であるものは課税されません。交通機関又は有料道路を利用している人への支給の場合は、15万円が非課税の限度額となります。また、マイカー通勤者への支給の場合は、片道の通勤距離により限度額が異なります。通勤距離別の非課税限度額は下記の通りです。

※例えば片道の通勤距離が13kmであれば1か月の限度額は 7,100円 となります。

その他には、使用者(会社等)が役員もしくは使用人(従業員等)に対し自己の営む事業に属する用役を無償もしくは通常の対価に満たない対価で提供し、又は福利厚生のための施設の運営費等を負担することによる経済的利益については、著しく多額である場合や役員だけを対象とする場合を除いて課税しないこととされております。

具体的な内容については、下記の項目にて述べてまいります。

 

従業員への諸手当

ここからは、よく見られる諸手当(経済的利益も含みます)の事例とその税務上の取扱いについて見てまいります。

|社宅等への入居

使用人に対して社宅や寮などを貸与する場合には、使用人から1ヶ月当たり賃貸料相当額の50パーセント以上の家賃を受け取っていれば、通常の賃貸料との差額について給与課税はされません。賃貸料相当額とは次の (1) ~ (3) の合計額となります。

(1)その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%

(2)12円 × その建物の総床面積(㎡)÷ 3.3㎡

(3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%

 

従業員の実際の負担額が、賃貸料相当額の半分を上回っていれば所得税は課税されないということになります。一方で従業員の負担額が下回っているときは、その不足額については源泉徴収の対象となります。

入居者が役員の場合は、その社宅等が小規模な住宅に該当するか否か、自社物件なのか他社物件なのか、豪華な社宅に該当するか否かにより賃貸借相当額の計算方法が異なりますのでご留意ください。

|家財の提供

会社から社宅入居者へ家具等を無償で貸与した場合は、それにより入居者が享受する経済的な利益は、課税対象になるものと考えられます。この場合の経済的利益の額は次のようになります。

・自社所有の家具等の場合

定額法により計算したその減価償却費相当額に、その家具等の維持管理のために通常要する費用相当額を加算する等の方法によって、合理的に見積もられた額となります。

・リースによる家具等の場合

リース会社等へ支払うリース料相当額となります。なお、上記の社宅等に係る賃貸料相当額の計算とは原則区分して評価を行うこととなります。

|駐車場代等

会社が所有又は賃借している駐車場を、自動車通勤の従業員に無償で使用させている場合ですが、その従業員が専属利用しているときは、駐車代相当額が経済的利益として給与課税されます。

特定の者の専属利用でなければ課税は行わなくて良いものと考えられます。具体的には、駐車場が空いているときは出勤の順で駐車場を利用できる旨の社内規程等が存在し、実際に運用されていれば課税上の問題はないと言えるでしょう。

一方、従業員が駐車場を賃借しており、会社が駐車代を負担するケースですが、基本的には当該駐車代は給与課税の対象となります。但し、業務用として利用していることを合理的に説明できるときは、給与課税の対象外となります。

なお、従業員の保有する車両を会社が借り上げた場合における会社から支払われる借上げ料は、従業員の雑所得となります。

|在宅勤務費用

コロナ禍より在宅勤務で仕事をされる方が増えましたが、在宅勤務に係る費用を会社が負担した場合における税務上の取扱いは次のようになります。実費精算ではなく、手当として渡し切り金を支給する場合には給与課税となります。

・光熱費

基本料金や電気使用料については、業務利用部分を合理的に計算して精算する場合は課税しなくても差し支えありません。計算方法の例としましては下記のようなものがあります。

【計算方法】

従業員が負担した月額電気料金等 ×(業務利用床面積 ÷ 自宅の床面積)×(1月の在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数)÷ 2

・通信費

通話料は業務に係るものは課税されません。頻繁に利用する場合は下記の計算式により算出した金額を業務利用分とすることができます。基本料金やインターネット接続料金は業務利用分を合理的に計算する必要がありますので、下記の計算式又はより精緻な方法で算出した金額であれば課税はされません。スマホ本体や個人的に利用するアプリ代金の支給については給与扱いとなります。

【計算方法】

従業員が負担した月額基本料金及び通話料等 ×(1月の在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数)÷ 2

・消耗品費

業務に利用するためのパソコンや環境整備のための机などの資産を貸与し、使用しなくなった際に返却する場合は課税の必要はありませんが、返却せずに無償又は低額で従業員に払い戻す場合は、給与課税されるものと考えられます。この場合、時価と売却金額との差額が経済的利益となります。

勤務時に使用する通常必要な消耗品を従業員が負担し、当該購入費用を支給(経費精算)する場合は、給与として課税する必要はありません。

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会社の経費となるもの

従業員への金銭の支給や経済的利益の供与であっても、通常会社の経費として認められるものは、基本的には給与課税を行う必要はありません。

|業務遂行上必要な経費

例えば人事異動に伴う転居費用(引越し代)は、通常必要とされる金額の範囲内であれば課税されません。その他には下記のようなものがあります。

・出張旅費

職務を遂行するための旅行において、必要な支出に充てるため支給される金品で通常必要であると認められるものは非課税となります。但し、年額又は月額により支給されるものは給与所得となります(明らかに通常必要であると認められるものであれば非課税です)。

日当ですが、社内規定が存在し適切な支給の基準が定められており、かつ同業種・同規模の会社と比較して支給額が相当であれば、非課税となります。

 ※日当は消費税は課税仕入れとなります。

・会議に係る飲食代

会議を行う際の通常の範囲内で提供される飲食にかかる費用は課税されません。但し、飲食代について実費精算ではなく渡し切りの場合や、会議の実態が無いと認められる場合は、課税される可能性があります。

・資格取得費

職務に直接必要な技術等の習得に係る費用又は免許等の取得に要する費用は、適正な範囲以内であれば給与課税の必要はないものとされております。

社内奨学金制度により専門学校等の授業料を会社が負担し、従業員が資格を取得後、一定期間会社に勤務することにより奨学金が免除される場合の経済的利益については、給与の減額が行われない等の一定の条件を満たせば非課税の扱いとなります。

|福利厚生費となるもの

忘年会等の飲食代で一律支給などの要件を満たしているものは課税されません。慶弔見舞金については、社内規程に従って支給されており社会通念上相当とされる金額の範囲内であれば給与課税はされません。その他には下記のような事例があります。

・健康診断費用等

健康診断や人間ドックの費用については、法律上実施が義務付けられている為、特定の者のみを対象としている場合や著しく多額の場合を除き、給与課税する必要はありません。なお、消費税は課税取引となります。

従業員の医療費を会社が負担した場合は、業務上生じた疾病でない限り給与課税の対象になるものと考えられます。

・社員旅行費用

社員旅行に係る費用の取扱いですが、旅行の内容を総合勘案し社会通念上一般に行われているもので金額が相当であり、かつ下記の要件を満たしているときは、課税しなくても良いものとされております。また、法人税は経費として損金計上が可能です。

    • 旅行の期間が4泊5日以内
    • 参加人数が全体の50%以上
    • 自己都合で参加しなかった者に金銭を支給しない

※参加者が役員だけであったり、取引先に対する接待等のための旅行については給与又は交際費となります。

・ストックオプション

税制適格となる条件を満たさないストックオプションの権利行使が行われた場合は、権利行使時の株価と権利行使価格との差額に株式数を乗じた金額が給与収入となる為、会社側には源泉徴収を含む給与事務が生じることとなります。

法人税ですが、ストックオプションの付与に係る費用は、給与課税事由が生じたときに損金算入されます。

 

国内外にわたるもの

海外に勤務している従業員は非居住者である為、国外源泉所得については日本の課税はされません。但し、取引の状況によっては源泉徴収漏れ等の税務リスクが生じる場合があります。

|海外旅費

海外出張費ですが、会社が従業員の海外渡航に際して支給する旅費は、その海外渡航が業務遂行上必要なものであり、かつ通常必要と認められる部分の金額については給与課税されません。なお、消費税は海外渡航費用は支度金も含め課税仕入にはなりません。

外国籍の従業員の帰郷費用ですが、国内において長期間引続き勤務する当該従業員に対し、会社が就業規則等に定めるところにより休暇のための帰国を認め、その帰国のための旅行に必要な支出に充てるものとして支給する金品については、そのうち国内とその旅行の目的とする国との往復に要する運賃で、最も経済的かつ合理的と認められる通常の旅行の経路及び方法によるものに相当する部分に限り、課税しなくてもよいものとされております。

その他の条件としましては、支給のタイミングはおおむね1年以上の期間毎であること等があります。なお、家族同行の帰国の場合は配偶者及び親族の分についても適用されます。

|給与較差補填

従業員を海外子会社へ出向させる場合において、海外子会社との給与条件の差を補填するために会社が支給する給与のうち相当と認められるものについては、法人税は損金とすることができます。消費税は給与扱いの為不課税となります。

給与較差補填を実施する際には、現地における給与水準の情報が必要です。海外子会社が負担すべき金額を日本本社が支給した場合には、給与ではなく国外関連者に対する寄附金と認定され、損金不算入となる可能性があります。

現地の給与水準のデータは定期的に入手し更新することが望まれます。

 

支給方法ですが、現地水準給与の部分は海外子会社から従業員へ支払い、較差補填部分は日本本社から従業員に支払う方法、あるいは補填部分を含んだ全額を日本本社から従業員へ支払い、海外子会社が現地水準給与を日本本社へ支払う方法等がありますが、いずれの場合であっても税務上の取扱いは変わりません

留意点としまして、日本本社の経営会議への出席などの為に海外出向社員が一時的に帰国した場合は、日本本社が負担する給与のうち、支給対象計算期間のうちに滞在日数の占める割合により按分計算した金額は、国内源泉所得として源泉徴収を行う必要があります。この場合における源泉徴収税率は20.42%となります。日本本社が賞与を支給する場合も同様の考え方をすることとなります。

 

まとめ(Conclusion)

経済的利益を含め従業員へ支給する手当については、基本的には給与所得となるものの、一定の取引については要件を満たせば非課税となります。支給を行う前に詳細を調べておくことで、従業員の税負担や会社の事務作業の軽減を図ることができます。

Although allowances including fringe benefits paid to employees are basically regarded as employment income, certain transactions will be exempt from taxation when requirements are fulfilled. Researching the details of the tax treatment beforehand leads to reduce employees’ tax burden and companies’ administrative workload.

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