今回は個人と法人の主に事業に係る税金の相違点について、比較をしながら解説をしたいと思います。所得税は超過累進税率で、法人税は固定税率であることの他にも相違点は多岐にわたります。国税の他に地方税が生じますが、こちらも個人か法人かにより取扱いが大きく異なる場合があります。
目次
所得税と法人税について
所得税と法人税の概要と計算の違いについて述べてまいります。所得税は事業所得の他、給与所得や譲渡所得など所得区分ごとに所得の計算方法が異なるのに対し、法人税は計算方法は変わりません。
|所得税の概要
個人が事業を行いますと、事業所得に対し所得税が課税されます。事業所得は総収入金額から必要経費を差し引き、さらに最大で65万円の青色申告特別控除額があります。
また、課税所得金額からは各種所得控除を差し引くことができ、所得控除には扶養控除などの人的控除と生命保険料控除などの物的控除があります。
所得控除後の金額に適用税率(超過累進税率5~45%)乗じ算出所得税を求め、さらに該当があれば税額控除(中小企業の機械設備の取得等)を差し引いた金額が所得税額となります。また所得税額の2.1%が復興特別所得税として課税されます。
なお、所得税の超過累進税率は次のとおりです(国税庁ホームページ資料より)。
控除額があるのは、所得金額全てに同じ税率は課されない為です。例えば所得金額が500万円であれば、税金計算は、上記表の算式によりますと、
500万円×20%-427,500円=572,500円
となり、また所得金額ごとの適用税率で計算しますと、
195万円×5%+(330万円-195万円)×10%+(500万円-330万円)×20%=572,500円
で、計算結果は同じとなります。
|法人税の概要
法人の場合、会計基準に基づき作成した決算書に記載された当期純利益から、加算減算の申告調整を行い所得金額を算出し、これに税率23.2% (中小法人の8百万円以下の金額は15%)を乗じて法人税額を算出します。
普通法人における税率は次のとおりです(国税庁ホームページ資料より)。
所得拡大促進税制や中小企業経営強化税制の適用などによる特別控除がある場合は、特別控除金額を法人税額から差し引きます。また、該当が有れば所得税額控除及び外国税額控除を除いて、差引所得に対する法人税額が求められます。
法人税の他に法人税額を課税標準とする地方法人税が課税されます。
2019年10月1日以後開始事業年度における地方法人税の税率は10.3%※となっております。
※2019年10月1日前開始事業年度における地方法人税の税率は4.4%です。
|計算上の相違点
主な違いとしましては、所得税は所得が増えるほど税率が上昇するのに対し、法人税は中小企業の特別税率はあるものの、税率自体は変わらないという点です。
計算面で見ますと、事業用の不動産や株式の売却に係る譲渡損益については、法人は営業に係る収入に直接加減算するのに対し、個人では分離課税となり事業所得とは別計算となります。
事業において損失が生じた場合、所得税の純損失の繰越控除期間は3年間ですが、法人税の繰越欠損金は10年間繰り越すことができます。
地方税について
事業に係る税金は国税だけでなく地方税もあります。ここでは事業税及び住民税につきまして、個人の場合と法人の場合の比較をしてみたいと思います。
個人の場合は、基本的に所得税の確定申告を行えば事業税及び住民税は自動計算されますが、法人の場合は自身で申告書を作成する必要があります。なお、ここでは資本金1億円以下の普通法人を前提としております。
※地方税はお住まいの自治体により取扱いが異なることが有りますので、詳細は県や市等のホームページなどをご参照ください。
|事業税の概要
事業税は、事業所等が所在する都道府県において課されます。事業税の金額は、所得税又は法人税と異なり、必要経費又は損金の額に算入することができます。なお、算入時期は納付日の属する年又は事業年度となります。
2以上の都道府県に事業所等を有する場合は、定められた基準(従業員数など)により所得金額は按分され、各都道府県に納税することとなります。
個人事業税
個人事業税の特徴としましては、青色申告特別控除が認められず、代わりに事業主控除(最大290万円)があることです。多くの事業が該当する第1種又は第3種事業(一部除く)の税率は5%※となっております。なお、納付月は8月と11月の年2回です。
※畜産業などは4%、あんま・マッサージなどは3%です。
法人事業税
法人事業税は、基本的に法人税の所得金額に対して適用税率を乗じて算出しますが、所得金額が4百万円以下、4百万円超8百万円以下、8百万円超の区分により、課される税率が3.65%、5.519%、7.288%と異なります。
但し、資本金が1億円以下であり、かつ年所得が5千万円以下のときは標準税率が適用され、上記の区分の税率はそれぞれ3.5%、5.3%、7.0%となります。
なお、資本金が1千万円以上で、3以上の都道府県に事業所等を有する普通法人は、所得金額に関わらず7.288%の税率となります。
※上記は2019年10月1日以後開始事業年度における税率です。
また、法人事業税を納める法人は特別法人事業税(地方法人特別税※)が課税されます。税額は法人事業税×37%(43.2%※)となります。
※2019年10月1日以後開始事業年度は特別法人事業税が課され、2019年10月1日前開始事業年度は地方特別法人税が課されます。
|住民税の概要
住民税には県民税と市民税があります。個人の場合、住所のある都道府県又は市町村において課税されますが、住所が無く事業所等が所在する都道府県又は市町村においては均等割のみが課されます。
法人の場合は、事業所等が所在する都道府県又は市町村において課されますが、事業所等がなく社員寮等のみが所在する場合は均等割のみが課されます。
※住所や事業所が愛知県及び名古屋市にある前提で解説いたします。
個人県民税・市民税
個人県民税・市民税ともに所得割と均等割が存在します。まず所得割ですが、所得税の計算において算定した所得金額を基に算出されますが、所得控除額は所得税の金額とは異なります。税率は県民税が2%で、市民税が7.7%※です。
※通常8%ですが、名古屋市は減税を行っている為税率が異なります。
続いて均等割ですが、県民税が2,000円、市民税が3,300円の計5,300円です。均等割は基本的に所得の多寡にかかわらず発生します。
法人県民税・市民税
法人県民税・市民税ともに法人税割と均等割が存在します。まず法人税割ですが、法人税割は上記の所得割とは異なり、法人税額に対して税率を乗じて算出します。
法人税割の税率ですが、法人県民税は1.8%で、法人市民税は8.4%です。但し、次の場合は標準税率が適用されそれぞれ下記の税率となります※。
【法人税割】
<法人県民税>資本金1億円以下かつ法人税額15百万円以下の場合 1.0%
<法人市民税>資本金1億円以下かつ法人税額25百万円以下の場合 6.0%
※2019年10月1日以後開始事業年度における税率です。
続いて均等割ですが、法人県民税は資本金等の額により、法人市民税は資本金等の額及び従業員数により金額が変動します。資本金等の額1億円以下の中小法人であれば、それぞれ次に掲げる金額となります。
【均等割】
<法人県民税> 資本金1千万円以下の場合 21,000円、超の場合 52,500円
<法人市民税> 資本金1千万円以下かつ従業員数50人以下の場合 5万円※
※さらに1千万円以下50人超の場合12万円、1億円以下50人以下の場合13万円、1億円以下50人超の場合15万円に分類されます。
2以上の都道府県又は2以上の市町村に事業所等を有する場合は、法人県民税又は法人市民税の法人税割の計算は、法人税額を従業者の数により按分して行います。
その他の税金等について
所得に係る税金ではありませんが、ポピュラーな税金としまして償却資産税そして事業所税を取り上げたいと思います。また税金ではありませんが、社会保険料についても比較を行ってみます。
|償却資産税
個人又は法人が毎年1月1日現在において償却資産を有する場合は、1月31日までに償却資産が所在する各市町村に償却資産税の申告を行う必要があります。個人と法人において計算の違いはありません。
但し、償却資産税の計算には所得税又は法人税と異なる項目があります。特に注意が必要な点を記載いたします。
1.所得税や法人税では備忘価額1円まで償却することができますが、償却資産税の計算では取得価額の5%を残します。また、新規取得資産の減価償却は月割りではなく必ず半年償却となります。
2.中小企業者等の少額減価償却資産の特例により、30万円未満の減価償却資産を全額必要経費又は損金の額に算入した場合であっても、償却資産税の対象となります。
3.留意点としましては償却資産税における減価償却方法は定率法のみである為、個人事業で減価償却方法の届出を行っていない場合は、評価額の計算を定額法からやり直す必要があります。
なお、課税標準額が150万円未満の場合は償却資産税は課税されません。
|事業所税
事業所税とは、個人又は法人における市内にある各事業所等の合計床面積が1千㎡超の場合(資産割)や、各事業所等の従業者数の合計が100人超の場合(従業者割)に課される市税です。
事務所は賃貸の場合を含み、従業者は役員を含みます。税額は次の算式により求められ、個人と法人による違いはありません。
【資産割】 事業所床面積 × 600円
【従業者割】 従業者給与総額 × 0.25%
申告期限は、個人は翌年3月15日で、法人は事業年度終了後2ヶ月以内です。
|社会保険料
個人と法人の場合において異なる大きな項目として、健康保険料や年金保険料があります。保険料率等は毎年変わる可能性がある為注意が必要です。
※当記事における数字は執筆時点におけるものです。
また、従業員を採用する場合は労災保険料と雇用保険料が生じます。
国民健康保険・国民年金保険
個人の場合、国民健康保険料及び国民年金保険料の負担が生じます。国民健康保険料は世帯ごとに計算され、内容は医療分、支援金分、介護分がありそれぞれ所得割と均等割が存在します。
所得割は、住民税の計算における総所得金額等を基にして保険料率(合計で約12%)を乗じて計算されます。均等割は合計で年間約7万円です。但し、3区分ごとに年間保険料の上限※が定められております。
※医療分61万円、支援金分19万円、介護分16万円で計96万円。
国民年金保険料は所得の多寡に関わらず一定金額であり、2019年4月から2020年3月までの年間金額は196,920円です。
健康保険・厚生年金保険
法人の場合、社会保険(健康保険及び厚生年金保険)への加入が義務付けられています。保険料の計算ですが、従業員(役員含む)の給与等の支給額を保険料額表にあてはめて標準報酬月額を定め、これに対応する保険料率を乗じます。
健康保険料率は9.9%(介護保険に該当するときは更に1.73%を加算)で、厚生年金保険料率は18.3%です。これらの保険料を法人と従業員で折半して負担します。法人は他に子ども・子育て拠出金を負担します。
こちらも上限が設定されており、健康保険の標準月額は635千円超、厚生年金の標準月額は1,355千円超で頭打ちとなります。
※愛知県又は名古屋市にお住いの前提です。詳細はお住まいの自治体のHP等にてご確認願います。
まとめ(Conclusion)
ご紹介しましたとおり個人と法人の税金の比較は、適用税率だけでなく多方面から見ることが重要です。中小法人であっても所得金額やその他のファクターにより税率や負担税額は変わります。また、諸税金の納期限につきましても個人と法人とで異なる場合があるため、スケジュール管理をしておくことが大切です。