役員や従業員に付与されたストックオプションの権利行使が行われた場合の経済的利益は、税制適格か税制非適格かにより取扱いが異なります。また、発行会社における費用の損金算入にも影響を及ぼします。
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税制適格ストックオプション
役員及び従業員の士気向上などの目的に用いられるストックオプション(新株予約権)ですが、税制適格ストックオプションとなる場合には、権利行使時点において課税関係は生じず、その権利行使により取得した株式を譲渡するときまで課税が繰り延べられます。
|適用要件
税制適格ストックオプションである為には、ストックオプションについて次の要件を満たす必要があります。
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- 発行会社の取締役等に無償付与される。
- 行使は付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年を経過する日までの間に行う。
- 権利行使価額の年間合計額が1,200万円を超えない。
- 行使に係る1株当たりの権利行使価額は、契約を締結した株式会社の契約締結時における1株当たりの価額相当額以上である。
- ストックオプションについては、譲渡が禁止されている。
- 行使に係る株式の交付が、会社法第238条第1項に定める事項に反しないで行われる。
- 行使により取得をする株式につき、発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において行使により取得した株式の保管の委託等がされる。
Ⅱ.ですが、発行会社が設立後5年未満の株式会社であること等の要件を満たす場合は15年となります。
Ⅲ.ですが、令和6年度税制改正により、設立後5年未満の株式会社から付与されたものは2400万円、5年以上20年未満の株式会社のうち非上場であるもの又は上場後5年未満であるものからの付与は3600万円となります。
Ⅳ.ですが、未上場の会社の場合は、純資産価額方式により算定した価額をもって契約締結時の時価とすることができます。なお、評価差額に対する法人税等に相当する金額の控除は行いません。
Ⅶ.ですが、発行会社と取締役等との間であらかじめ締結された取決めに従い、発行会社において行使により取得した譲渡制限株式の管理がされる場合も可能です。
|課税関係
勤務先からストックオプションを付与された場合、現物給与支給とみなされますが、付与時には所得を認識しません。また、権利行使時においても課税関係は生じず、譲渡しない限り課税は行われません。
株式を譲渡した場合ですが、譲渡時における時価と権利行使価額との差額が譲渡所得となります。譲渡益については、原則として申告分離課税(20.315%)の対象となります。なお、税制適格ストックオプションに係る株式は、特定口座やNISA口座にて保管することはできません。
税制非適格ストックオプション
上述の税制適格ストックオプションの要件を満たさない限り、ストックオプションは税制非適格となり、権利行使時点において給与所得課税が行われます。その後株式を譲渡した場合には譲渡所得課税が行われます。
|従業員等の税金計算
税制非適格ストックオプションも付与時における現物給与としての課税はありません。権利を行使して株式を取得する場合に、行使時点の取得した株式の時価と権利行使価額との差額について給与所得として課税されます。
【計算式】(行使時の株価-権利行使価額)× 株式数
権利行使して取得した株式を譲渡する場合には、その譲渡収入と権利行使時の株式の時価との差額が、株式等の譲渡に係る譲渡所得等の金額として課税されることになります。
【計算式】(譲渡価額-行使時の株価)× 株式数
譲渡所得については申告分離課税の対象として確定申告を行うか、源泉徴収を選択した特定口座に保管することで確定申告をしないことも可能です。なお、NISA口座で管理することは認められていません。確定申告書には、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書を添付します。
|発行法人側の経理処理
発行法人側の経理処理についてですが、付与時、権利行使時、権利失効時の仕訳を記載致します。
<付与時>
株式報酬費用 ●●円 新株予約権 ●●円
<権利行使時>
現金預金 ●●円 資本金 ●●円
新株予約権 ●●円
<権利失効時>
新株予約権 ●●円 新株予約権戻入益 ●●円
発行会社は、税制非適格ストックオプションにかかる費用を給与等課税事由が生じた日において、法人税法上損金算入することになりますので、同事由が生じない限り損金算入は認められません。同事由が発生しないまま権利が消滅した場合の消滅益は益金不算入となります。また、損金算入の要件としてストックオプションが下記に該当する必要があります。
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- ストックオプションと引換えにする払込に代えて役務提供の対価として個人に生ずる債権をもって相殺される。
- ストックオプションが実質的に役務の提供の対価と認められるものである。
給与所得として課税される経済的利益は、勤務先法人(発行会社)に源泉徴収義務が生じますので、同時期に支給する給与から控除するか、又は権利行使する従業員等から徴収するなどの実務対応が必要となります。
取得者が役員の場合ですが、ストックオプションの権利行使は基本的には定期同額給与に該当しませんので、事前確定届出給与又は業績連動給与に該当しなければ損金算入されません。また、適格新株予約権に限られるため非上場株式の場合は対象外となります。
税制非適格ストックオプションの付与にかかる費用を損金算入するためには、確定申告書に新株予約権の交付数や権利行使価格等を記載した、別表14(4)「新株予約権に関する明細書」を添付する必要があります。
外国親会社からのストックオプション
外国親会社から付与されたストックオプションは、税制非適格ストックオプションとなるため、権利行使時に生じる経済的利益につき、給与所得として課税対象となります。
|従業員等の税務
海外の親会社から付与されたストックオプションは、会社法に定める事項に基づくものではない為、税制適格の要件を満たしません。ストックオプションの権利行使時に生じる経済的利益は給与所得となり、株式売却時には売却時の株価と権利行使時の株価の差額が譲渡所得して課税されることとなります。
例として、株価200ドルで権利付与された株式を、株価260ドルのときに権利行使をし、株価340ドルで売却したときのケースを見てみます。
権利行使時ですが、260ドル-200ドル=60ドルが経済的利益となり、換算レートは給与所得の場合は取引日のTTMを用います。
株式売却時ですが、340ドル-260ドル=80ドルが譲渡利益となり、換算レートは株式譲渡所得の場合は、取得費については取引日のTTSを用い、譲渡収入については取引日のTTBを用います。なお、譲渡に伴って生じる為替差損益は、雑所得に区分する必要はなく譲渡所得の計算に含めます。
また、取得した株式を発行法人である外国親会社に対して譲渡したときには、みなし配当が生じる場合があります。その場合は配当所得及び譲渡所得について申告を行うこととなります。もし、外国所得税が控除されている場合は、外国税額控除の適用により一定の所得税額を取り戻すことが可能です。
|会社側の税務
外国親会社のストックオプションの権利行使に係る株式交付の事務手続きが国内で行われない場合は、日本子会社には経済的利益(給与所得)に係る源泉徴収義務は生じないものと考えられます。
但し、外国親会社が50%以上の株式を保有している場合は、日本子会社は供与等があった日の属する年の翌年3月31日までに「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」を所轄税務署に提出する義務が生じます。
法人の株主等が、その法人の自己の株式の取得等により金銭その他の資産の交付を受けた場合、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式等に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に対応する金銭その他の資産は、所得税法上、配当とみなされます。交付金銭のうち配当とみなされた金額以外の部分は株式の譲渡対価となります。
なお、2種類以上の株式を発行している場合は、取得する株式と同一の種類の株式に係る資本金等の額を計算する必要があります。
まとめ(Conclusion)
スタートアップ企業にも用いられ、値上がり益が見込めるストックオプションですが、確定申告、源泉徴収及び調書の提出などの事務手続きを忘れてしまいがちな項目です。それぞれ提出期限には留意が必要です。
Share options are utilized by many companies including start-up companies and can be expected to increase in value, but it is possible to forget about the administrative procedures such as filing tax returns, withholding income taxes and submitting reports. It is required to check the each due date of them.