暗号資産に係る税務上の取扱い【税金計算から報告制度まで】

暗号資産(仮想通貨)の売買等により利益が生じた場合は、基本的に確定申告が必要となります。暗号資産に係る売却損益の計算方法の他、売買以外の取引に係る税務上の取扱いなど、留意すべき事項を取り上げてまいります。

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個人における暗号資産取引

個人の方が暗号資産を売却したこと等により生じた利益は、原則雑所得となります。雑所得は総収入金額から必要経費を差し引いた金額で総合課税となりますので、適用税率は超過累進税率となります。

|譲渡損益の計算

暗号資産を売却した場合の譲渡損益の計算式ですが、

譲渡価額 ― 譲渡原価 ー その他の必要経費

となります。

譲渡価額は 売却数量 × 売却単価 で、その時の交換レートを用います。

譲渡原価は 一単位当たりの価額 × 支払った数量 です。

但し、複数の取引を継続的に行う場合は、期末保有暗号資産の一単位当たりの評価額を総平均法又は移動平均法により計算を行う必要があり、この場合の譲渡原価の算式は次のようになります。

      1. 期首保有暗号資産の評価額
      2. その年に取得した暗号資産の取得価額総額
      3. 期末保有暗号資産の評価額

譲渡原価=ⅰ+ⅱーⅲ

 

ⅰは前年から繰り越された残高です。

ⅱは購入代価に購入手数料を加えた金額となります。

ⅲは期末一単位当たり取得価額に期末保有数量を乗じた金額です。

期末一単位当たりの取得価額は、選定した評価方法により計算の仕方が異なります。なお、計算は暗号資産の種類ごとに行います。

まず、総平均法の場合は、

期首残高及び当年取得価額総額の合計額を、期首数量及び当年取得数量の合計額で除した金額が期末一単位当たり取得価額となります。

続きまして、移動平均法の場合は、

暗号資産の取得の都度、その時点で保有している暗号資産の簿価総額を暗号資産の数量で除して算出した価額を平均単価とし、年末時点に最も近い日において算出した平均単価が期末一単位当たり取得価額となります。

その他の必要経費ですが、例としましては売却に係る手数料です。その他にインターネットの利用料やPCの購入金額(減価償却費)などのうち、必要な支出と認められる部分については必要経費に算入されます。但し、他の目的にも利用している場合は実証が難しくなるかと思われます。

暗号資産の取得価額が不明な場合は、売却価額の5%を取得価額とすることができます。

 

|評価方法の届出

初めて暗号資産を取得した場合や異なる種類の暗号資産を取得した場合には、評価方法の届出書を税務署へ提出します。評価方法には上述の通り総平均法及び移動平均法がありますが、所得税における法定評価方法は総平均法ですので、届出書を提出しなかったときは総平均法により計算します。

評価方法の変更を行う場合には、変更しようとする年の3月15日までに変更承認申請書を税務署へ提出します。なお、一旦評価方法を変更しますと、原則3年間は元の評価方法に戻すことはできません。

|収入計上時期

暗号資産取引の収入金額の計上時期は、暗号資産の引き渡しがあった年となります。但し、選択により暗号資産売買取引等に係る契約をした年とすることも可能です。

|売却以外の取引

売却の他にも、暗号資産を商品の購入代金の決済手段として使用した場合や、暗号資産同士の交換を行った場合も同様に所得計算を行う必要があります。

フォークと呼ばれる分岐分裂により暗号資産を取得した場合ですが、その時点では価値がないものとして、取得価額はゼロ円とし収入計上を行いません。

暗号資産の証拠金取引に係る差金決済等より生じた差益又は差損は、収入金額又は必要経費に算入します。FXなどのように「先物取引に係る雑所得等」の所得区分とはなりませんので、申告分離課税の適用はありません。

マイニング(採掘)により暗号資産を取得したときは、取得時における時価にて総収入金額に計上します。これに係る手数料は必要経費に算入します。

|事業所得となる場合

暗号資産取引に係る所得区分ですが、以下の場合は雑所得とはならず事業所得とされます。

・暗号資産の取引による収入で生計を立てていることが客観的に明らかな場合

・事業者が棚卸資産などの購入の際に決済手段として使用した場合

 

 

暗号資産取引に係る確定申告

暗号資産取引につき利益が生じた場合は、申告不要の特例に該当するケースあるいは納税額が生じないケースを除き、確定申告を行う必要があります。

|損益通算

暗号資産取引の所得区分は雑所得である為、暗号資産取引につき損失が生じた場合であっても、給与所得などとの損益通算はできません。但し、雑所得内での通算は可能ですので、年金収入や副業による収入がある方は、これらの収入と通算されます。

また、事業所得や不動産所得などにおいて損失が生じ、かつ暗号資産取引に係る所得がある場合は、これらの損失を通算することは可能です。

|計算関連書類

暗号資産取引に係る所得計算を行うには、取引内容のわかる資料が必要となります。国内取引につきましては、暗号資産交換業者から年間取引報告書を入手します。

海外取引の場合は報告書の入手は難しいので、銀行口座の入出金履歴や暗号資産交換業者が公表している取引レートから購入金額及び譲渡金額を計算します。

なお、暗号資産取引に係る計算書等は、確定申告書に添付する必要はありません。但し、税務署からの問い合わせがあった場合に備え、取引記録は必ず保管しておくようにします。

暗号資産の交換により多額の所得が生じた方は、翌年の税金の納付に注意する必要があります。キャッシュインがない為、納期限に納税資金を確保できないリスクがあります。

 

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他の税金の取扱い等

ここからは法人の場合や相続等があった場合、更にその他の事項について取り上げてまいります。

|法人税の取扱い

法人税についてですが、所得税と取扱いが異なる点をピックアップいたします。

まず、法人の場合における収入金額の計上時期は、約定日基準となります。

続いて、期末保有暗号資産の期末一単位当たり取得価額の評価方法ですが、法人の場合は移動平均法が法定評価方法となります。

期末保有暗号資産についてですが、活発な市場※がある場合は期末時価評価を行い、評価益は益金に評価損は損金に算入します。これらは翌期に洗い替えを行います。前期の評価益を損金に、あるいは前期の評価損を益金に算入します。

※下記の要件全てを満たす場合は、活発な市場が存在する暗号資産とされます。

    • 継続的に売買価格等が公表され、暗号資産の売買の価格等の決定に重要な影響を与えている
    • 十分な数量及び頻度で取引が行われている
    • 売買価格等の公表及び取引が第三者により行われている

 

期末時点で未決済の暗号資産に係るデリバティブ取引や信用取引ですが、期末において決済されたものとみなして、未決済損益につき評価益は益金に、評価損は損金に算入します。これらもまた翌期に洗い替えを行います。

|相続税等の取扱い

暗号資産は相続税や贈与税の課税対象となります。

評価方法ですが、活発な市場が存在する暗号資産の場合は、納税義務者が取引を行っている暗号資産交換業者の公表する課税時期における取引価格※により評価します。

※暗号資産交換業者が購入価格及び売却価格を公表している場合や、複数の暗号資産交換業者と取引を行っている場合は、納税義務者が評価に適用する取引価格を選択することが可能です。

活発な市場が存在しない暗号資産の場合は、暗号資産の内容、性質、取引実態等を勘案し個別に評価することとされております。

なお、暗号資産の贈与があった場合ですが、贈与した側はその時における価額を雑所得の総収入金額に計上します。低額譲渡(時価の70%未満)した場合の贈与とされる部分につきましても同様です。

|消費税の取扱い

暗号資産の譲渡は、支払手段の譲渡とされ非課税となりますが、課税売上割合計算にも含めないため、仲介手数料等は除いて消費税計算には一切関与しません。

|報告制度

退職所得以外の所得金額の合計が2千万円を超え、かつ3億円以上の財産を保有する場合等に提出が必要となる財産債務調書ですが、暗号資産は記載の対象となります。暗号資産は「その他の財産」に該当し、種類別・用途別・所在別に記載します。記入する金額は、年末時点における取引価格となりますが、算定が困難な場合は見積価額を記入します。

永住者が5千万円を超える国外財産を有する場合に提出が必要ととなる国外財産調書ですが、暗号資産は財産を有する者の住所により判定される財産に該当するため、国外の暗号資産取引所に保有されている場合であっても記載の対象外です。

海外の暗号資産取引所にて1回の取引につき3千万円を超える場合は、外為法の規定により支払又は支払の受領に関する報告書の提出が必要となります。提出先は日本銀行国際局国際収支課となります。罰則規定があるため多額の暗号資産の海外取引を行っている方は注意が必要です。

 

まとめ(Conclusion)

暗号資産取引の税務上の取り扱いは株式取引と似ている所もありますが、異なる点が多々あります。また、短期的な価格変動が大きい為、適用レートの誤りや取引そのものの計上漏れには注意し、取引はその都度記録するようにしましょう。

Tax treatment of crypto assets transactions is apparently similar to that of stock transactions, but there are several differences. You need to be careful for choose of applicable rate or omission of transaction record due to large fluctuation of trading rate in short term. It would be better to record them each time.

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