相続時における対応と課税関係【債務がある場合等】

相続は資産のみならず、債務についても承継します。被相続人が抱える借金等につき相続人がどのように対処し、それにより課税関係がどのようになるのか事前に知ることは大変重要です。

スポンサードリンク

被相続人の債務への対処

被相続人が事業を行っており、金融機関からの借入金がある場合は、相続人がその借入金を承継することとなります。この場合の対応と課税関係を見ていきます。

|資産を譲渡して返済する場合

相続人が被相続人の債務保証をしており、弁済の為に保有する不動産を譲渡するケースですが、所得税には次のような取扱いがあります。

保証債務の履行の為に保証人が所有する不動産を譲渡して、債務者に代わり債務の弁済を行い、その履行に伴う求償権の全部または一部が行使不能となったときは、その譲渡はなかったものとみなされます。

 

しかし、相続後はその債務は保証債務ではなく、相続人の債務となるため上記の適用はなく、相続人には譲渡に係る所得税が課税されます。

なお、借入金は相続税の計算において債務控除の対象となり遺産総額から差し引きます。

|相続を放棄する場合

相続人が被相続人の借金につき債務保証をしておらず、相続放棄をした場合には、被相続人の債務につき弁済義務はありません。

但し、相続放棄をしますと相続税において不利になることもあります。具体的には以下の規定の適用が受けられなくなります

・生命保険金等の非課税(5百万円×法定相続人の数)

・退職手当金等の非課税(5百万円×法定相続人の数)

・債務控除

・相次相続控除

・代襲相続人の相続税2割加算の不適用 など

 

もし被相続人における債務が大きくなく、相続財産の他に生命保険金があるのであれば、結果的に相続放棄はしない方が良いケースもあります。

なお、相続放棄手続きは相続開始の日から3月以内に行う必要があります。

 

被相続人の保証債務への対処

被相続人が他者に対して連帯保証人となっている場合に相続があったときは、その保証債務も相続の対象となります。この場合の対応と課税関係を見ていきます。なお、保証債務は基本的には債務控除の対象外となります。

|相続を放棄する場合

相続放棄をしますと、上記のケースと同様に被相続人の保証債務につき弁済義務は無くなります。但し、相続税法上の有利規定を使用することもできません。

|限定承認により相続する場合

相続財産が保証債務も含めた負債額より多いかどうか不明な場合や、被相続人が事業を営んでおり、その事業を承継したい場合などは限定承認という方法があります。

限定承認とは、被相続人の債務に対し相続財産の範囲内でのみ支払うという条件で行う相続です。この場合所得税の取扱いは次のようになります。

限定承認に係る相続はみなし譲渡とされ、被相続人から相続財産を時価により相続人に譲渡したものとされます。

 

この場合の納税義務者は被相続人で、当該譲渡所得税は相続債務となります(債務控除の対象)。また、相続開始の日から4月以内準確定申告により被相続人の所得税の申告及び納付を行います。

なお取得費についてですが、原則被相続人の購入代価となりますが、過去に居住用財産の買換え等の特例規定を使用しているときは取得費が異なることと、限定承認のときは相続後3年以内譲渡の取得費加算の特例が使えないことに注意が必要です。

取得費が不明な場合は譲渡価額の5%とします。

限定承認の手続きは、相続開始の日から3月以内に行う必要があります。相続人全員の共同で家庭裁判所へ限定承認申述書を提出します。

スポンサードリンク

 

相続人等の保証債務への対処

被相続人ではなく、相続人が他の者への債務保証を行っている場合において相続があったときの対応と課税関係等についても見ていきます。

|遺産分割により対処する場合

相続人が複数存在し、そのうちの一人X氏が他者(債務不履行の可能性大)の連帯保証人である場合において、遺産分割協議によりX氏のみ財産を相続しないという方法を選択すると、どのようになりますでしょうか。

一見すると、財産を相続しなければX氏は債務を弁済することができない為、保証債務の履行を求められないように思われるかもしれませんが、当該行為は詐害行為取消請求の対象となり、債権者から訴えられる可能性があります。

仮に遺産分割が取り消された場合には、相続税の修正申告又は更正の請求を行うことが考えられます。このようなケースではX氏のみ相続放棄をした方が良いかもしれません。

遺産分割協議前に土地等を譲渡した場合ですが、共同相続人への換価代金の分配が予定通りに行われるときは、その割合により各々譲渡所得税が課税がされます。

 

|離婚による財産分与をした場合

夫が他者(債務不履行の可能性大)の債務保証をしており、その弁済を逃れるため妻と離婚し、妻への財産分与として所有する不動産を渡した場合はどうなりますでしょうか。

まず、財産分与に係る所得税の取扱いですが、

財産分与により土地や建物を離婚した相手に渡した場合には、時価により譲渡したものとして所得税が課税されます。また、当該不動産が居住用財産である場合には3千万円の特別控除の適用があります。

 

但し、妻が受け取った資産の価額が不相当に高額(1/2超)であるときは、詐害行為取消請求の対象とされ債権者に訴えられる可能性があります。

なお、相続により取得した不動産は一般的には財産分与の対象とはなりません。

 

最後に直接的な債務のお話ではありませんが、

被相続人の生前に預金を引き出し、相続人が個人的な費消し、その3年以内に相続があったときは、その相続人は贈与税の期限後申告が必要となり、かつ相続財産に加算される可能性があります。

 

生前に介護費用などに使うため被相続人の預金を引き出した場合においても、しっかりと記録や明細を残すことが大切です。

 

まとめ(Conclusion)

相続財産だけでなく債務又は保証債務が存在し、さらに不動産等の譲渡が絡む場合には相続税の他、所得税の取扱いにも十分注意が必要です。また各種手続きや申告納付には期限がある為、スケジュールを意識して行動しましょう。

Please pay attention to not only income tax but also inheritance tax when there will be inheritance including debts or guaranteed obligation and sales of property. Also, it is crucial to be aware of deadline of application procedures regarding inheritance and tax return.

スポンサードリンク
Verified by MonsterInsights