法人の節税対策や事業承継などに生命保険が活用されるケースがあります。しかし近年様々なタイプの生命保険が発売されており、税務上の取扱いはしっかりと確認しておく必要があります。特に出口戦略は大変重要となります。
目次
法人が保険料を支払った場合
法人が生命保険料を支払った場合の保険料の取扱いは、基本的に定期保険であれば全額損金算入、養老保険であれば1/2損金算入、1/2資産計上となります。しかし、保険商品によっては取扱いが異なり、例えば保険期間の前半6割期間のみ一定の損金算入が認められたりするものなど、様々です。
|がん保険(終身保障タイプ)のケース
ここでは法人が支払うがん保険(終身保障タイプ)について、取り上げたいと思います。法令解釈通達によりますと、計算上の保険期間満了は105歳とされ、終身払込ですと、保険期間の前半部分(前払期間といいます)は支払保険料の1/2が損金算入されます。
また、有期払込ですと上記とは取扱いが異なります。
例としまして、契約時の年齢が41歳、有期払込(65歳払込満了)、保険料年額40万円の場合における税務上の取扱いを見てみます。
① 損金算入額の計算
前払期間のうち、払込期間が終了するまでの期間は、支払った保険料のうち、保険期間のうちに払込期間の占める割合(当期分保険料)を算出し、その割合に相当する額の1/2のみが損金となります。
40万円 ×(65歳-41歳)÷(105歳-41歳)= 15万円
150,000円 × 1/2 = 75,000円 【損金算入額】
② 仕訳処理
(借方) | (貸方) |
支払保険料 75,000円 | 現金預金 400,000円 |
保険積立金 325,000円 |
※保険積立金には1/2資産計上した金額と残りの損金不算入額が含まれます。
前払期間のうち払込期間終了後については、1/2資産計上した金額を取り崩して損金算入します。また、前払期間経過後は一定の方法により、残りの損金不算入額についても取り崩して、損金算入されます。
|生命保険の活用法
返戻率が高い生命保険商品などが発売されており、顧客獲得競争が激しくなっております。その中には退職金として活用する商品もあります。
経営者の方で、仮にご自身の役員報酬を上げますと所得税、住民税、社会保険料が増加するすることとなります。一方で、役員報酬は上げずに退職金として受領した場合は、税金計算上は有利となります(退職所得控除及び1/2計算が使えます)。
注意したい点としまして、支払保険料は法人の損金となりますが、解約返戻金もまた益金となり課税されることとなりますので、結果、単に課税の繰り延べとなってしまうケースもあります。
|給与所得課税となる場合
役員や従業員を被保険者とし、その遺族を受取人とする生命保険料を法人が支払っている場合で、特定の者のみを対象としているときは、その保険料はその者に対する給与として扱われますので、源泉徴収が必要となります。一方で源泉徴収された者は生命保険料控除の適用があります。
事業承継における活用
もし、父親である経営者が長男に会社を引き継がせるため、株式を生前贈与して、のちに相続が発生(妻はすでに他界)した場合で、その間に株価が増加しており、かつ次男には公平な分配が行われないときは、次男が長男に対し遺留分の減殺請求を要求してくるケースが考えられるます。
遺留分とは遺産のうち、兄弟姉妹以外の相続人のために残しておかなければならない一定の割合を言い、遺留分の基礎となる財産価格は次の算式となります。
被相続人の死亡時の財産価額 + 贈与した財産価額 - 債務の額
なお、財産価額は生前贈与分を含め相続開始時の価額となります。
このようなケースで揉めない為の対処法の一つとして、生命保険を活用して長男が次男に代償分割するという手段があります。また、父親が生前中に次男を生命保険の受取人とする代わりに遺留分の放棄の手続きをさせることも一つの解決方法です。
生命保険金は相続税の納税資金とすることもでき、また、500万円×法定相続人 の金額が非課税となるメリットがあります。
法人から個人への名義変更
法人から個人への名義変更する場合ですが、生命保険の評価額はその時点での解約返戻金相当額となります。また個人がその後すぐに解約し、解約返戻金を受け取った場合は一時所得として課税されますが、注意しなければならないのが、一時所得の計算上、収入金額を得る為に支出した金額はあくまでも個人が負担した金額に限られるということです。
従いまして、解約するまでに法人が払い込んだ保険料の額は、一時所得から控除できず、予想よりも実際の負担税額が大きくなることもあります。出口戦略には十分注意が必要です。
保険金の受取であっても非課税とされるものもあります。ご参考までに所得税の計算において除いても良いものを以下に記載いたします。
【非課税となる保険金】
・入院給付金や手術給付金
・高度障害保険金
・介護保険金(一時金・年金)
・特定疾病(三大疾病)保険金
・リビングニーズ特約に基づく生前給付金 など
税制改正情報(支払調書について)
生命保険契約に係る支払調書につき税制改正が行われており、平成30年1月1日以後に保険契約者の変更があった場合には、生命保険会社等は一定の事項を記載した調書を税務署長に提出しなければならないこととなりました。
|変更点その①
死亡による契約者変更があった場合には、変更前及び変更後の契約者の氏名住所等、解約返戻金相当額、払い込んだ保険料等を記載した調書が提出されます。
なお、解約返戻金が1百万円以下の場合等は提出不要とされております。
|変更点その②
保険金の一時金の支払いがあった場合に提出する調書につき、これまでは記載対象ではなかった、直前の契約者の氏名住所等や契約者変更の回数などの記載が行われることとなります。
なお、単に名義変更の時点では課税はされません。
まとめ(Conclusion)
最後に、生命保険契約に関する権利についてですが、親が契約者で子が被保険者及び受取人の場合、満期返戻金を受け取ったときは贈与税が課税され、親が死亡したときは相続税が課税されます。もし子が保険料の一部を負担しているときは、その割合分は除かれます(満期保険金のうちその割合分は所得税が課税されます)。