法人成りの手続き及び税務上の留意事項【個人事業主との相違点など】

個人事業主が、事業が順調に推移したときに考えなければならないのが税金の問題です。所得税は超過累進税率を採用している為、一定の規模を超えますと法人の方が税金面で有利となります。また、税率の他にも様々な点で取扱いが異なります。

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会社の設立について

税金面の他にも、法人化により信頼度を高めてさらに事業を拡大したい、優秀な人材を採用したい、などといった理由で法人成りを行うケースがありますが、まずは会社の設立について見ていきたいと思います。

|設立手続き

会社の設立においてやるべきことや手順は、主に次のようになります。

① 設立前準備

② 定款の作成・認証

③ 資本金の払込み

④ 設立登記の申請

⑤ 各種届出・手続き

 

①設立前準備ですが、まずは会社名、所在地、事業内容を定めます。また発起人、事業年度及び会社の機関など必要事項を決定します。その他にも実印や銀行印の作成などが必要です。

②定款の作成・認証ですが、定款とは会社のルールであり、会社法により記載事項が定められております。①で定めた事項の他には、資本金の額発行可能株式総数の記載が必須であり、任意ではありますが、株式の譲渡制限、公告の方法及び役員の任期の延長などの記載事項があります。定款作成後は公証役場において定款の認証を行います※。

※紙媒体ではなく電子定款によることも可能です。

③資本金の払込みですが、②の完了後に発起人個人の口座に資本金の払込みを行います。資本金の振り込みが完了しましたら、払込証明書を作成します。作成には通帳のコピーと代表印(会社の実印)が必要です。

④設立登記の申請ですが、登記申請書類を作成し、法務局へ登記の申請を行います。自身で行うこともできますが、依頼をする場合は、登記が代行できるのは司法書士のみです。なお登記申請をした日が会社設立の日となります。

⑤各種届出・手続きは、会社設立後にやらなければならない事項です。税務署には法人設立届出書※や青色申告の承認申請書などを提出します。年金事務所には健康保険及び厚生年金、ハローワークには雇用保険、労働基準監督署には労災保険の手続きを行います。

※地方自治体にも所定の届出書の提出が必要となります。

なお届出書の提出には定款の写し等が必要です。また銀行口座開設などの為に印鑑証明書を取得しておきます。

|設立スケジュール

会社設立に要する日数は、事前準備の進め方や定款の内容等により異なります。ご自身で行う場合ですが、2週間から1ヶ月程度を見込んでおけばよいかと思います。

但し、会社が設立しても登記が完了するまでに1~2週間を要します。なお、株式会社ではなく合同会社の場合は、定款の認証が不要となりますのでスケジュールは短縮されます。

|設立コスト

会社設立には主に以下の費用が生じます(株式会社を想定)。これら以外にも専門家に依頼した場合には別途手数料がかかります。

登録免許税 15万円(又は資本金の0.7%のうち高い方)

公証人手数料 5万円(定款の認証)

収入印紙代 4万円(電子定款の場合は不要)

謄本代 2千円程度(1枚250円で8枚位)

 

登録免許税ですが、合同会社の場合は6万円(又は資本金の0.7%のうち高い方)です。また電子定款ですが、印紙代は不要でも電子証明書や専用ソフトの費用が生じます。

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法人と個人の税務上の取扱い

法人成りをした場合は、法人における法人税等の税金計算とご自身の代表取締役としての所得税等の税金計算を行うこととなります。

|税務上の取扱いの比較

法人と個人事業主における税務上の主な取扱いをまとめました。特に相違点のある項目を取り上げております。

項目 法人 個人事業主
 税率 法人税は23.2%(中小法人の年8百万円以下の部分は15%)です。 所得税は超過累進税率により5%~45%です。
 地方法人税 法人税額×4.4% ありません。
 道府県民税 法人税割(法人税額×3.2%)と均等割(2万円)が生じます。 所得割(課税所得×4%)と均等割(2千円)が生じます。
 市町村民税 法人税割(法人税額×9.7%)と均等割(5万円)が生じます。 所得割(課税所得×6%)と均等割(3千5百円)が生じます。
 事業税 中小法人の年4百万円以下の部分は3.4%、年8百万円以下の部分は5.1%、年8百万円超の部分は6.7%です。 事業主控除290万円控除後の課税所得×5%(製造業等の場合)
 地方法人特別税 事業税×43.2% ありません。
 欠損金・純損失 10年間繰越可能 3年間繰越可能
 役員報酬 定期同額給与事前確定届出給与については損金算入。 ありません。
 専従者給与 給与・賞与は損金算入。 一定期間事業に従事等の要件を満たせば必要経費。
 退職金 不相当に高額な部分を除き損金算入。 ありません。
 生命保険料 役員及び従業員を被保険者とした定期保険の場合は保険料全額が損金算入。 支払保険料のうち一定金額が生命保険料控除となります。
 交際費 年8百万円又は飲食費の50%のいずれかが損金算入。 業務遂行上、直接必要なものは全て必要経費。
 社宅家賃 会社名義の場合、家主への支払額と代表取締役からの受取額との差額が損金算入。 家事費扱い(店舗部分は必要経費)。

【注意書き】

・法人は資本金1億円以下の中小法人を前提としております。

・所得税には復興特別所得税(所得税額の2.1%)が生じます。

・法人住民税及び事業税の税率は資本金の他、所得要件を満たしている前提です(満たしていない場合は税率が高くなります)。

・法人住民税及び事業税の均等割は資本金の額や従業員数により変動します。

・2019年10月1日以降開始事業年度より道府県民税・市町村税・地方法人税の税率が変わります(これらの合計の負担率は変動しない見込み)。

※住民税や事業税の数値は各自治体により異なる場合があります。詳細につきましては各自治体のホームページをご参照ください。

|取扱いにおける留意事項

上記の表の内容の他、法人成りを行う前に考慮すべき事項を記載いたします。

住民税について

個人住民税の所得割は課税所得金額に10%を乗じますが、法人住民税の法人税割は法人税額を基礎として計算します。また法人は赤字の場合であっても住民税均等割が7万円生じます(個人の場合住民税には非課税規定が有ります)。

役員報酬について

個人事業主のときは、事業所得計算において青色申告特別控除が有りますが、法人になりますと自身に報酬を支払い、その報酬額は法人税においては損金となり、所得税においては給与所得(給与所得控除後の金額に課税)となります。

家族への給与について

青色事業専従者の場合は6月超(又は従事可能期間の1/2超)の従事が必要ですが、法人の従業員となった場合は従事期間の定めはありません。さらに合計所得金額38万円以下であれば配偶者控除を受けることができます。

生命保険料について

法人が契約者である養老保険の保険料の支払いについては、死亡保険金と満期保険金の受取人が誰かで取扱いが変わります(法人を受取人としていれば資産計上)。また、ご自身の家族のみを被保険者としているときは、当該支払保険料は給与扱いとなり、源泉徴収の対象となる可能性があります。

その他について

細かな経費でも個人事業主と法人では取扱いが大きく異なるものがあります。例えば出張手当ですが、個人事業主においては存在しませんが、法人成りをしますと支払額が法人の損金となり、受け取る側は所得税は非課税です。また消費税においては課税仕入れとなります。

 

|社会保険料の取扱い

税金の他に気を付けなければならないのが社会保険料です。個人事業主のときは、ご自身の分のみであった健康保険料と年金保険料が、法人成りをしますと会社負担分も生じることとなります(人員を採用している場合は雇用保険と労災保険にも加入します)。

但し、個人事業主のときは所得金額で保険料が計算されていたのに対し、会社の社会保険は役員報酬で計算する為、配偶者の報酬も含めご自身で調整を行うことが可能となります。

法人成り後は株式の譲渡所得などは保険料の計算には反映されません。

 

 

まとめ(Conclusion)

税率のみで比較しますと、所得金額が330万円を超えますと所得税率は20%となるため、法人税率15%(中小法人で年8百万円以下)が有利に思われますが、地方税や社会保険料、そして代表取締役の所得税も考慮する必要があります。

法人化することのメリットとデメリットも含めて事前のシミュレーションが大事となります。

When comparing between a proprietor of business and a company in terms of tax rate, the latter seems to be advantageous in the condition of exceeding 3.3 mil JPY taxable income. But it should be considered including local tax, social insurance premium and individual income tax of the owner. We encourage you to make any simulations in advance before establishing a company.

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