確定申告特集その②:株式の配当を受け取った場合

上場株式等の配当金を受け取った場合は、確定申告をしなくてもよいのですが、状況によっては申告をすることで税負担上、有利となることもあります。事例を用いて確認したいと思います。

スポンサードリンク

課税方法の種類

配当所得の場合、総合課税、申告分離課税、申告不要の3パターンがあります。なお、NISA、ジュニアNISA及びつみたてNISAにおける配当は非課税の為、対象外となります。

(注)上場株式の配当(3%以上の大口株主を除く)を前提としております。

|総合課税による場合

配当所得の金額は、他の総合課税となる所得の合計額と合算され、超過累進税率により課税されます。この場合、配当控除の適用を受けることができます。

従いまして、適用される所得税率マイナス配当控除10%の合計と源泉徴収税額20%※と比較し、税負担率が下回っているのであれば総合課税が有利となります。

※この他に復興税(所得税×2.1%)が生じます。

なお、配当控除は1千万円を超えますと控除額は5%となります。また、外貨建て証券投資信託の受益権などは控除額が異なります。


【住民税】におきましても、総合課税とした場合には配当控除の適用があります。但し総合課税の場合の税率は10%※となります。

※名古屋市は減税を実施しております。また、住民税には別途均等割が発生します。

但し、総合課税を選択しますと配当所得の金額が合計所得金額に算入される為、扶養控除や配偶者控除の適否の判定に影響を及ぼしますので、適用を考えられている場合は家族間で相談しましょう。

|申告分離課税による場合

株式を譲渡して損失を計上したときは、申告分離課税を選択することで上場株式等の配当所得と通算することができます。他に所得がないときは配当金の受取の際に差し引かれた源泉徴収税額が還付されます。

なお、平成28年以降国債や地方債などの利子につきましても申告分離課税を選択することで、上場株式の配当と同様に損益通算が可能となっております。

 

また、前年に生じた株式の譲渡損失が繰り越されている場合においても同様に通算することができます(上場株式の譲渡損失は3年間繰り越し可能)。

留意点としまして一部の配当につき申告分離課税を選択し、残りを総合課税を選択するということはできません。


【住民税】ですが申告分離課税を選択した場合の税率は5%となります。但し、申告分離課税を選択しますと所得税・住民税ともに配当控除の適用はありません。

さらに総合課税と同様に配当所得の金額が合計所得金額に算入される為、こちらも扶養控除や配偶者控除の適否の判定に影響を及ぼします。

|申告しない場合

確定申告を行わない場合は、所得税(復興税含む)15.315%及び住民税5%が源泉徴収されて課税関係は完結します。配当控除や損益通算などの適用はありません。

申告不要としたときは、配当所得の金額が合計所得金額に算入されず、扶養控除や配偶者控除の適否の判定への影響はありません。申告不要とするかどうかの判断は、上場株式等の場合1回ごとの配当につき行うことができます※。

※源泉徴収口座の場合は口座ごとに選択することとなります。

なお、非上場株式等の配当の場合は、1回5万円以下又は年1回10万円以下の配当につき、申告不要とすることができます。但し、所得税は源泉徴収されますが、住民税は源泉徴収されていない為、少額であっても住民税の申告が必要となります。

 

課税方法の選択

配当所得については、所得税と住民税とで異なる課税方法を選択することができます。例えば所得税では申告分離課税を選択して、住民税では申告不要制度を選択することができます。

株式の譲渡損が生じている場合、申告分離課税により配当所得や別口座の株式の譲渡益と通算することで、通常税負担は下がりますが、合計所得金額には算入されます。国民健康保険料を支払っている場合は、住民税の所得金額は国民健康保険料の算定基礎となる為、保険料の増加につながります。

そこで住民税のみを申告不要とすることで、税金の他、国民健康保険料や保育料なども含めて有利判定を行うことができます。

気を付けなければならないのが、住民税の申告不要制度を利用するには手続きが必要ということです。一つの方法として、住民税の申告書の上部余白に上場株式等の配当所得等の申告不要制度選択と記載し、所得金額には記入しないというやり方があります※。

※手続きに関しましては各自治体において異なるケースがあるため、事前にお住まいの自治体に確認することをお勧めいたします。

スポンサードリンク

 

ケーススタディ

ここでは事例を用いて、配当に係る申告方法の選択がどのように税額に影響するのか見てまいりたいと思います。なお所得控除は基礎控除のみとし、復興税及び均等割は省略しております。

ケース1

Aさんの年間収入は上場株の配当金100万円のみの場合。

(注)国民健康保険料は名古屋市の場合で計算しております。以下同様。

総合課税の場合、所得税は適用税率が最低の5%でかつ配当控除の適用がある為、源泉徴収税額15万円が全額還付され、住民税は税率が10%となるため源泉徴収額のうち1.1万円のみの還付となり、国民健康保険料を支払っている場合は約8万円の保険料が生じます。

申告分離課税の場合、所得税は配当控除の適用が無いため5.7万円の還付となり、住民税も同様に配当控除の適用は無く1.65万円の還付で、国民健康保険料は総合課税のときと同額となります。

申告不要を選択しますと、源泉徴収税額イコール所得税額及び住民税額となり、源泉徴収税額の還付はありません。しかし合計所得金額に算入されない為、国民健康保険料は生じません。

以上を踏まえますと、所得税は総合課税により計算し、住民税は申告不要を選択するのが最も税負担上有利となります。

 

ケース2

Bさんは源泉徴収口座であるX口座に配当金100万円株式譲渡益200万円の収入があり、別の一般口座であるY口座に株式譲渡損150万円がある場合。

(注)株式の譲渡は申告分離課税を選択するものとします。

総合課税の場合、所得税は適用税率が最低の5%でかつ配当控除の適用があり、また株式譲渡損益は通算され、結果、源泉徴収税額のうち44.4万円が還付されます。住民税は税率が10%となるため源泉徴収額のうち8.6万円の還付となり、国民健康保険料を支払っている場合は約14.3万円の保険料が生じます。

申告分離課税の場合、所得税は株式の譲渡損益は損益通算されますが、配当控除の適用が無いため還付は28.2万円となります。住民税は税率が5%となる為還付額は約9万円となりますが、国民健康保険料は総合課税のときと同額となります。

申告不要を選択しますと、ケース1と同様に源泉徴収税額の還付はありませんが、国民健康保険料が生じないため「住民税+国民健康保険料」は一番低くなります。

以上を踏まえますと、所得税は総合課税により計算し、住民税は申告不要を選択するのが最も税負担上有利となります。

 

ケース3

Cさんは源泉徴収口座であるX口座に配当金200万円株式譲渡益50万円があり、別の一般口座であるY口座に株式譲渡損180万円がある場合。

(注)株式の譲渡は申告分離課税を選択するものとします。

総合課税の場合、所得税は適用税率の低さと配当控除の適用、そして株式の譲渡益は全額相殺される為課税は無く、源泉徴収税額37.5万円が全額還付されます。住民税は税率が10%となるため源泉徴収額のうち1.4万円の還付となり、国民健康保険料を支払っている場合は約4.5万円の保険料が生じます。

申告分離課税の場合、所得税は株式の通算後譲渡損130万円(50万円-180万円)が配当所得と損益通算されますが、配当控除の適用が無いため32.7万円の還付となります。住民税は上記の損益通算がある為約10万円の還付となり、国民健康保険料は総合課税のときと同額である為、「住民税+国民健康保険料」ではこちらが有利となります。

申告不要を選択しますと、源泉徴収税額イコール所得税額及び住民税額となり、源泉徴収税額の還付はありません。しかし合計所得金額に算入されない為、国民健康保険料は生じません。

以上を踏まえますと、所得税は総合課税により計算し、住民税は申告分離課税を選択するのが最も税負担上有利となります。

同じ源泉徴収選択口座に配当の他株式譲渡損があり、他の口座の株式譲渡益と損益通算をする場合には、配当を申告不要とすることはできません。

 

 

まとめ(Conclusion)

所得税は所得が少ない場合は税率が低くなる為、総合課税が有利となり、所得が多い場合は多額の譲渡損がない限り、申告不要とするのが有利に働きます。

住民税は申告分離課税とすることで配当と株式譲渡損の通算ができるものの、国民健康保険料の増加につながります。よって、会社の健康保険に加入していない場合は申告不要制度のご利用を一考するのが良いでしょう。

In individual income tax system, the lower taxable income becomes, the lower income tax rate becomes. Therefore, it would be advantageous that you select aggregate taxation when your income is low and select separate taxation when your income is high.

In residential tax system, if you select separate taxation, you can subtract loss in sales of share from dividends income. But it would lead to increase of premium of national health insurance, so you might want to select no filing tax return in residential tax.

スポンサードリンク
Verified by MonsterInsights