建議書から読み解く税制の仕組み②【消費税・相続税編】

前回の記事に引き続き、日税連の建議書につきまして内容を見てまいります。公平かつ合理的な税制の確立と申告納税制度の維持・発展を求めており、現状の税制における問題点を指摘しております。今回は消費税と相続税を中心に解説いたします。

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建議と要望項目

消費税及び相続税に係る建議の内容及び要望項目をピックアップします。問題点を取り上げることにより、制度の理解と税法の使い方を学ぶのに役立ちます。

|消費税編

項目 要望の内容 現状の取扱い
軽減税率制度 単一税率の維持 2019年10月から飲食料品の譲渡等につき軽減税率が適用
請求書等の記載と保存 請求書等保存方式の維持 2023年10月から適格請求書等保存方式の導入予定
基準期間制度 当課税期間の課税売上高による判定 前々年又は前々事業年度の課税売上高により納税義務は判定されます
社会政策的配慮に基づく非課税取引 課税取引として課税標準や仕入税額控除計算を行う 社会保険診療等の場合非課税売上に対応する課税仕入に係る消費税は控除されません

①について

ご周知の通り、2019年10月より複数税率(軽減税率)制度が導入され、飲食料品の譲渡及び定期購読による新聞の譲渡には軽減税率が適用されます。

建議書では、事業者の事務負担の増加や逆進性対策として非効率であること等から、単一税率を維持すべきとしております。

多くの事業者において課税期間の途中から税率が変わり、かつ飲食料品の譲渡等については軽減税率が適用されることとなるため、課税売上及び課税仕入につき、増税前の8%・増税後の10%・軽減税率の8%とそれぞれ区分経理をする必要があります。返品等があった場合についても同様です。

申告書への記載については、売上高の場合、旧税率、新税率、軽減税率の他に免税売上、非課税売上、不課税売上を区分する必要があります。手順としては日々の記帳において区分経理をした各金額を課税取引金額計算表に記入し、付表1-1、1-2で課税標準額から納税額までを、付表2-1、2-2で課税売上割合と控除対象仕入税額を求めることとなります。

このように複数税率制度では、増税による税負担が増すばかりでなく、事業者の事務作業量が確実に増加することとなります。


②について

軽減税率制度に伴い、2019年10月から区分記載請求書等保存方式が導入され、さらに2023年10月からは適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)の導入が予定されております。

建議書では、インボイス方式は事業者や行政の事務に多大な影響を与えることから見直すよう述べております。

インボイス制度導入時には、課税事業者は税務署へ申請をし登録を受けます。そして登録を受けた適格請求書発行事業者が交付する適格請求書の保存が仕入控除の要件となります。

導入後は免税事業者からの課税仕入れについては、段階的ではありますが、仕入控除が認められなくなります。従いまして事業者は免税事業者との取引を避けるようになることが予測されます。

 


③について

納税義務者の判定は、個人であれば前々年、法人であれば前々事業年度の課税売上高が1千万円を超えるかどうかにより判定します。

建議書では、全ての事業者を課税事業者とし、当年又は当事業年度の課税売上高が一定金額以下の場合は、申告不要を選べるようにすることを述べております。

現状では、2年前の課税売上高が一時的な増加により1千万円を超えた場合で、当年の売上が5百万円となったとしても申告を行う必要があります。

また、免税事業者が設備投資を行う予定で、課税仕入れに係る消費税の還付を受けようとしますと、実施年よりも前に課税事業者選択届出書を提出しなければなりません。


④について

社会政策的配慮に基づく非課税取引の範囲には、社会保険医療、介護サービス、身体障碍者用物品の譲渡、学校授業料、住宅の貸付などがあります。

建議書では、主として非課税取引の資産の譲渡等を行う事業者は、最終消費者ではないのに実質的に消費税を負担していること等から、課税取引として課税標準及び仕入税額控除計算を行えるようにすることを述べております。

現状では、全額控除の場合を除き、非課税売上に対応する課税仕入に係る消費税は控除することができません。

計算例としまして、社会保険診療報酬が100、自由診療報酬が100(税抜金額)で、共通対応課税仕入れに係る消費税が10の場合の控除対象仕入税額は、10 × 100/(100+100)=5 となります。

 

|相続税編

項目 要望の内容 現状の取扱い
取引相場のない株式の評価 (1) 相続開始前3年内取得土地等の評価の適正化 同資産については相続税評価額ではなく時価で評価される
取引相場のない株式の評価 (2) 土地保有会社等の評価方法の見直し 純資産価額方式などによる評価となる
相続時精算課税における受贈財産の評価 (1) 災害等により損失を受けた場合における選択 相続時の価額は認められず、贈与時の価額による評価を行う
相続時精算課税における受贈財産の評価 (2) 小規模宅地等の特例の適用 現状は適用することはできない

⑤について

非上場会社の株式を純資産価額方式により評価する場合、評価会社が相続開始前の3年以内に取得した不動産については、相続税評価額ではなく時価により評価することとなっております。

建議書では、当該資産においても通達に定める評価方法により評価することを述べております。

土地は路線価により評価を行いますが、路線価は公示地価の約8割とされているため、現状の規定によれば通常の相続税評価額よりも高く評価され、納税額が増える要因となっております。


⑥について

こちらも非上場株式の評価についてですが、例としまして大会社に区分される場合で、総資産価額のうちに土地等の占める割合が70%以上となるときは、土地保有特定会社に該当します。相続人等が同族株主であれば、土地保有特定会社の株式は純資産価額方式により評価することとなります。

建議書では、土地保有特定会社など特定の評価会社の評価方法の見直しについて述べております。

同族株主の場合、大会社であれば類似業種比準方式、中会社又は小会社であれば併用方式により評価することができますが、特定の評価会社に該当しますとそれぞれに定める方法により評価を行うこととなります(評価額は上がる傾向にあります)。

ご参考までに特定の評価会社には次のものがあります。

      • 比準要素数1の会社
      • 株式等保有特定会社
      • 土地等保有特定会社
      • 開業後3年未満又は比準要素数0の会社
      • 開業前又は休業中の会社
      • 清算中の会社

 

 


⑦について

相続時精算課税を選択して資産を贈与した場合において、のちに相続があったときは、当該資産は贈与時の評価額により相続税の計算を行います。

これに対し建議書では、相続時精算課税における受贈財産が災害等により損失を受けた場合には、財産価値は著しく減少していることから、相続時の価額との選択を可能とするよう述べております。

対象資産が非上場株式で、発行会社の業績が贈与時から相続時までの間に大きく向上した場合には、贈与時点の評価額により相続税計算が行われるため納税者有利となりますが、贈与から相続までの間に災害等が生じ、業績が傾いた場合には、罹災する前の財務内容による評価となり納税者不利となります。

 


⑧について

こちらも相続時精算課税についてですが、宅地等を贈与し、後に相続があった場合には、小規模宅地等の特例を適用することができません。

建議書では、相続時精算課税制度を選択した場合でも、生活基盤である財産の減額措置である小規模宅地等の特例の適用を受けられるようにと述べております。

相続時精算課税を選択しますと小規模宅地等の特例は適用できませんが、早目に財産を資金負担なく、あるいは少額の資金負担で将来の相続人に移転することができます。

贈与財産が賃貸用不動産であれば受贈者は賃貸収入を得ることができ、納税資金を確保できるというメリットがあります。
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税制改正の基本的な考え方

今後の税制改正についての基本的な考え方として、消費税と相続税について記述している内容の一部を取り上げたいと思います。

|消費税について

消費税については次のような記述があります。

簡易課税制度について、みなし仕入率を引き下げ、設備投資に係る仕入税額控除を認め、その課税期間に係る諸届出の提出時期を申告期限までとする

 

簡易課税を選択した場合は、事業区分に基づき定められたみなし仕入率を使用して売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を計算します。

仮に小売業の場合で課税売上高に係る消費税額が500、課税仕入れに係る消費税が300で、簡易課税を選択しているときは、みなし仕入率は80%であるため、仕入控除税額は500×80%=400となり、実際よりも控除対象仕入税額が増え、結果納税額は原則課税と比べて減少することとなります。

一方で多額の設備投資があった場合において、簡易課税が適用されるときは、実際の課税仕入れに係る消費税が税金計算に反映されないこととなります。実額で計算をしたい場合には、当課税期間よりも前に消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出しておく必要があります。

|相続税等について

相続税・贈与税ですが、次の項目について触れております。

相続税については基礎控除額の更なる引き下げの反対とし、贈与税については教育資金や結婚子育て資金の贈与の廃止又は縮小、基礎控除の拡大や税率構造の見直しを行う

 

贈与税の特例には主に次のものがあります。

      • 配偶者控除
      • 住宅取得等資金の贈与
      • 教育資金一括贈与
      • 結婚・子育て資金一括贈与
      • 特例贈与財産に係る特例税率

 

このうち教育資金一括贈与についてですが、これは直系尊属からの一定の手続きによる教育資金の贈与が1500万円まで非課税となる制度ですが、平成31年度税制改正により2019年4月1日以後の贈与については、受贈者の前年合計所得金額が1千万円を超える場合※には適用を受けられないこととなりました。

※結婚・子育て資金一括贈与についても同様です。

さらに贈与者が当該贈与から3年以内に死亡したときは、その時点の管理残高は相続財産に加算されることとなります(受贈者が23歳未満の場合や学校等に在学している場合などを除きます)。

また、2019年7月1日以後に23歳以上の受贈者に学習塾等教育に関する役務提供の対価※など、学校等以外のものに係る支払いについては、この特例の対象外となります。

※教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用は対象となります。

一方で教育資金管理契約の終了につきましては、受贈者が30歳となった場合でも学校等に在学しているときは、当該契約は終了しないものとされました。

 

最後に、日税連の建議書の原文を読んでみたい方はこちらから読むことができます。

 

まとめ(Conclusion)

消費税と相続税の観点から建議書の内容をご紹介致しました。特に消費税は増税だけでなく、制度自体が複雑化の一途をたどっています。税制には納税者が有利となる制度が複数ありますが、事前に要件を満たすよう対策をすることが最も重要と言えるでしょう。

We have introduced the proposal of tax reform regarding consumption tax and inheritance tax from Japan Federation of Certified Public Accountants’ Associations. Especially, in consumption tax, its rate will increase and its rules have been more complicated. But there are some special tax rules which taxpayers could receive benefit. It can be said that the most important thing is to make preparations to meet the requirements of tax rules in advance.

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