法人成り後の会社における会計税務【設立一期目】

法人成り後の会社における設立一期目の会計及び税務には、特有の計算方法や取扱いが生じるケースがあります。その中でもよくある項目について取り上げて解説いたします。

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会社設立一期目の会計処理

個人事業主は基本的に所得計算が中心となりますが、法人はそれだけではなく、貸借対照表には資産の部や負債の部の他、純資産の部が登場し、これらの区分や計上価額をどのようにするのか判断が必要となります。

また、個人事業主が保有していた資産を法人が使用する場合には、引き継ぎの仕方により処理方法が異なるケースがあります。

|資本金

事業の開始日は、会社設立日である登記申請をした日とします。そして払い込んだ資本金の金額につき仕訳を計上します。

Dr. 普通預金 Cr. 資本金

別段預金に振り込んだ場合は、普通預金ではなく別段預金とします。

金銭ではなく現物出資の場合は、仕訳は次のようになります。

Dr. 資産(土地、建物、車など) Cr. 資本金

なお、現物出資の場合は調査報告書や財産引継書を法務局に提出します。また、不足額があったときは発起人が不足額を会社に支払う必要があります。

|棚卸資産

棚卸資産を買い取った場合は仕入(又は商品)勘定で処理します。計上金額は個人からの買取価額となります。

なお、買取価額が時価の70%又は個人事業主側の仕入金額のいずれか大きい金額以上でないときは、受贈益が生じる可能性があります。

|固定資産

車などの減価償却資産を買い取る場合は、中古資産の取得として個人事業主側の簿価で買い取り、個人側で譲渡益が生じないようにします。また売買の他、贈与や賃貸によることも可能です。仕訳はそれぞれ次のようになります。

【買取】 Dr. 減価償却資産(車など) Cr. 現預金

【贈与】 Dr. 減価償却資産(車など) Cr. 受贈益

【賃貸】 仕訳なし(ファイナンスリースの場合は資産計上)

不動産を個人事業主から買い取る場合で、買取価額が時価の1/2未満の金額のときは時価で譲渡したものとみなされますので、時価を貸借対照表価額とし差額分は受贈益として計上することとなります。

設立会社が個人が使用していた資産を買い取るときは売買契約書を作成します。

 

|繰延資産

繰延資産とは次のように定義されています。

法人が支出する費用(資産の取得費用及び前払費用を除く)のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶ一定のもの

 

名称の通り基本的に資産計上(投資その他の資産)をします。また、繰延資産には①会社法上の繰延資産と②税法独自の繰延資産があります。

① 会社法上の繰延資産

会社法において規定されている繰延資産は、損金経理(費用計上)を行うことで全額その事業年度の損金に算入することができます。その中には次のようなものがあります。

【創立費】

会社の設立に要する費用で、定款認証手数料や設立登記に係る登録免許税などが該当します。

【開業費】

会社設立から営業開始までの間に特別に支出する費用で、この期間における市場調査費、広告宣伝費や開業に必要な許認可費用などが該当します。

この他に開発費、株式交付費、社債等発行費があります。

② 税法独自の繰延資産

①以外の法人税法上の繰延資産は少額繰延資産に該当する場合を除き、資産計上したのち償却期間にわたって均等償却を行う必要があります。よくある例としましては次のようなものがあります。

【資産を賃借し又は使用するための権利金等】

建物を賃借するために支出する権利金などについては5年で償却を行います。礼金で契約期間が5年未満のときはその契約期間で償却します。

【ノーハウの設定契約に係る頭金】

フランチャイズチェーンの本部へ支払う加盟金は、一般的には加盟店経営者に返還されない為繰延資産に該当します(5年償却)。

【自己が便益を受けるために支出する費用】

同業者団体の加入金などが該当します(5年償却)。その他には太陽光発電設備の連系工事負担金(15年償却)やプライバシーマーク使用料(契約期間で償却)などがあります。

これらの他に、自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良費用などがあります。

税法独自の繰延資産のうち、支出金額が20万円未満であり、支出事業年度において損金経理を行った場合には、全額をその年度に損金算入することができます。
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留意すべき法人税の計算

設立事業年度が1年の場合は必要有りませんが、1年未満の場合は多くの項目において月数按分等の調整計算が必要となります。ここでは1年未満を前提に、主に調整計算について取り上げてみます。

|減価償却費の計算

個人事業主から引き継いだ償却資産や設立年度に購入した償却資産は、月割計算を行いますが、計算方法は次のようになります(定率法は償却額が保証額を上回っている場合とします)。

(イ) 償却率 × その事業年度の月数 ÷ 12 (小数点3位未満切り上げ)

(ロ) 帳簿価額 × (イ) × 事業供用日から期末までの月数 ÷ その事業年度の月数

償却方法の届出をしていない場合の減価償却ですが、個人事業主は定額法により計算しますが、法人は定率法により計算することとなります。

また、引継ぎ資産は中古資産であるため、法定耐用年数ではなく見積もった使用可能期間で減価償却を行うことができます。なお、見積もり年数は次の簡便的な計算方法によることができます。

法定耐用年数の全部を経過しているとき

→ 計算式 = 法定耐用年数×0.2

法定耐用年数の一部を経過しているとき

→ 計算式 = 法定耐用年数-経過年数×0.8

※1年未満の端数は切捨て、計算結果が2年未満のときは2年とします。

機械などで改良のために支出した金額(資本的支出)がある場合には、その支出金額の大きさにより耐用年数の見積もり方法が異なります。

資本的支出が取得価額の50%以下のとき

→ 上記の簡便計算による年数

資本的支出が再調達価額※の50%超のとき

→ 法定耐用年数によります

※その資産を新品で購入したときの価額をいいます。

資本的支出が再取得価額の50%以下取得価額の50%超のとき

→ 下記のⓐ ÷ ⓑにより算出した年数

ⓐ 中古資産の取得価額+資本的支出の額

ⓑ (中古資産の取得価額÷簡便法による耐用年数)+(資本的支出の額÷法定耐用年数)

 


減価償却費は、所得税における取扱いと法人税における取扱いにおいて違いがあります。

所得税の場合、減価償却計算は強制であり、もし計算漏れや不足額があったときは翌期において余分に計上することはできず、更正の請求等で誤った年度の減価償却費の計算をやり直すこととなります。

法人税の場合、減価償却費は任意であり、また経理要件があるため償却費として損金経理をした金額のうち償却限度額に達するまでの金額が損金算入されます。償却超過額があった場合において、翌事業年度に償却限度額より少ない金額の減価償却費を計上したときは、差額につき損金算入することができます。

|受取及び支払賃料

①個人事業主が所有する建物を設立会社が賃借した場合

法人側は支払った賃借料を費用計上し、損金算入することができます。但し、相場と比べて著しく高い金額を支払っているときは、個人事業主(代表取締役)への経済的利益として役員報酬扱いとなり、損金に算入されない可能性があります。

②設立会社が所有する建物を社宅として個人事業主に賃貸した場合

個人事業主(代表取締役)から受け取る賃借料は収益計上し、益金に算入されます。但し、その金額が一定金額以下であるときは、その差額については役員報酬とみなされ、法人側は損金不算入(毎月同額であれば定期同額給与となる場合有り)、個人側は給与所得となる可能性があります。

なお、土地の賃借の場合で税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出したときは、権利金や地代について認定課税を受けることはないものと考えられます。

|その他月割計算項目等

減価償却費(一括償却を含む)以外にも次の項目等については、会社設立月から事業年度終了月までの月数のみが計算対象となります。

・寄附金の損金算入限度額

・交際費の損金算入限度額

・中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入限度額

・中小法人の軽減税率の年8百万円以下の税額計算

 

また、下記の項目等につきましては前事業年度が存在しない為、当事業年度の金額のみで計算を行います。

・受取配当金の控除負債利子の原則法計算(簡便法は適用なし)

・一括貸倒引当金の貸倒実績率(実質的に債権とみられない額の計算は原則法のみ)

 

 

消費税及び地方税について

ここでは設立初年度における法人税以外の税金に関する留意点を記載いたします。

|消費税の取扱い

法人成りをした場合におきましても、個人事業における課税売上高の金額は法人の納税義務の判定には関係なく、資本金が1千万円未満のときは、その法人の第1期及び第2期は免税事業者となります。但し、設立1期目であっても特定新規設立法人※に該当するときは課税事業者となります。

※その事業年度の基準期間が無い法人で、事業年度開始において基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超える他の個人又は法人に株式の50%超を保有されている法人をいいます。

簡易課税の選択届出ですが、原則届出書を提出した翌課税期間からの適用となりますが、会社設立など事業の開始年度におきましては、その年度より適用することができます。

|地方税の取扱い

住民税ですが、たとえ設立年度で赤字となった場合においても均等割(県民税及び市民税)は必ず生じます。但し、事業年度が1年に満たないときは月割計算を行います。1月に満たない端数は切捨てとなりますので、月の2日などに設立しますと若干の節税になります。

事業税ですが、年4百万円以下及び年8百万円以下の軽減税率による税額計算は、法人税の場合と同様に月割計算を行います。なお、事業年度終了日において資本金が1億円超の場合は外形標準課税が適用されます。

 

まとめ(Conclusion)

法人成りをしますと個人事業のときにはなかった税制の適用により税金面で有利となるケースもありますが、多くの項目で判定や計算方法が異なる為、情報の収集は不可欠です。初年度はご紹介しました按分計算や慣れない別表作成などに時間を要することが想定されますので、余裕をもって決算準備を進めることをお勧めします。

When establishing a company, business owners may receive tax benefit due to applying tax rule which they could not use at the time of self-employed. But it is indispensable to collect any information regarding corporation tax rule and calculation. We encourage you to make preparation for settlement of accounts earlier, because you need much time for tax calculation and making tax return form including some appended tables.

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