輸出取引に係る税務【消費税編】

輸出販売業を行っている場合、売上に係る消費税は輸出免税となる為、通常消費税の申告は還付申告となります。但し、輸出免税の適用には要件があり、また還付金を受ける為には諸条件が整っている必要があります。

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輸出免税となる消費税

まずはどのような取引が輸出取引等に係る免税に該当するのか、また輸出免税の要件とは何かについて見てまいります。

|輸出取引等の範囲

輸出取引等に該当する主なものとしましては、次に掲げる取引が挙げられます。日本から海外への商品の輸出販売はもちろん輸出取引となります。

      • 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
      • 外国貨物の譲渡又は貸付け
      • 国内及び国外にわたって行われる旅客又は貨物の輸送 など

 

また、非居住者に対する取引につきましても、一定の無形固定資産等の譲渡又は貸付けの他、役務の提供で次に掲げるもの以外のものは輸出取引となります。

      1. 国内に所在する資産に係る運送又は保管
      2. 国内における飲食又は宿泊
      3. ⅰ又はⅱに準ずるもので国内において直接便益を享受するもの

 

ⅲの具体的な取引としましては、国内での理容、医療、観劇、日本語学校の語学教育などが挙げられます。これらは輸出取引等の範囲から外れます。

なお、消費税法における非居住者とは、いわゆる外為法に規定する非居住者を指しており、所得税法における非居住者の定義とは異なりますので注意が必要です。

消費税では外国法人の日本支店は居住者とみなされます。外国法人への売上の場合、当該法人が日本に支店等を有しているときは、その支店等を経由して取引が行われたものとして、基本的には輸出免税に該当しません。

|輸出免税の要件

輸出免税の適用を受けるには、その輸出取引等につき承認を受けた事実を証明する書類の保存が必要となります。主な区分ごとの必要書類は次のとおりです。

【輸出の許可を受けた商品の輸出の場合】

輸出許可書等

【サービスの提供などの場合】

契約書等で次の事項が記載されたもの

①事業者の氏名及び住所等、②取引年月日、③資産又は役務の内容、④対価の額、⑤相手方の氏名及び住所等

【郵便物による輸出で20万円超の場合】

税関長が証明した書類

【郵便物による輸出で20万円以下の場合】

帳簿又は書類で次の事項が記載されたもの

①年月日、②品名、③品名ごとの数量及び価額、④受取人の氏名及び住所等、⑤受取年月日(書類の場合)

令和3年10月1日以後の資産の譲渡等については、日本郵便株式会社から交付を受けた引受証及び発送伝票の控えが必要となります。

国際郵便や国際信書便につきましても、事実を記載した帳簿又は書類で一定の要件を満たしているものの保存が必要となります。書類の保存期間は輸出を行った課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間です。

 


名義貸しの場合

輸出免税が適用されるのは、原則輸出申告書に記載された者のみです。但し、商社等を介在して行われた輸出で、輸出申告書に商社等の名称が記載されている場合であっても、次のような措置を行うことで実際の輸出者が輸出免税の適用を受けることができます。

(1)実際の輸出者が輸出申告書等の原本を保存

(2)消費税輸出免税不適用連絡一覧表等の書類を名義貸しを行った商社等へ交付し、名義貸しに係る輸出につき税法上取扱いがないことを指導

(3)同商社等が上記一覧表を確定申告書とともに税務署へ提出

 

|ケーススタディ

ここでは、輸出免税となるのか判断が悩ましい取引や、誤りやすい事例を掲載しましたのでご参照ください。

・外国に住む人に対してのオンラインによるコンサルティング

→ 国内で直接便益を享受する役務ではない為、輸出免税に該当します。

 

・来日した外国人に対して国内で行ったセミナー

→ 国内で直接便益を享受する役務である為、輸出免税に該当しません。

 

・海外向けの電子書籍等の販売

→ 電子通信利用役務の提供に該当する為、役務提供を受ける者の住所地で国内取引の判定が行われます。この場合国外取引となり、消費税は不課税扱いとなります。

 

・ネットオークションによる非居住者への販売

→ 必要書類を保存することにより輸出免税の適用が受けられます。国内運営サイトへの支払手数料等は課税ですが、輸出に係る支払運賃は免税となります。

 

・国内仕入先から直接輸送による国外取引先への販売

→ 契約書や伝票においてその者の仕入・売上となっていたとしても、輸出取引には該当しません。一方で仕入先は輸出許可書等を保存しているときは輸出免税の適用を受けます。

 

還付となる場合の条件

消費税の還付を受けるためには課税事業者である必要があります。納税義務が免除されている課税期間や、簡易課税制度の適用を受ける課税期間は、還付を受けることができません。また、仕入控除の適用を受けるには一定の事項を記載した帳簿の保存が要件となっております。

|課税事業者選択届出書

事業を開始した直後は基準期間が無い為、通常開業後2年間は免税事業者となります(新設法人の特例等に該当する場合を除きます)※。

※特定期間における課税売上高及び給与支給額が1千万円を超える課税期間は、納税義務は免除されませんので注意が必要です。

免税事業者である方が課税事業者になるには、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに課税事業者選択届出書を税務署へ提出します。なお事業開始年度の場合はその年度中に提出すれば適用されます。

この届出は2年間継続適用されるため、再び免税事業者に戻ろうとする場合は、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後に課税事業者選択不適用届出書を提出します(調整対象固定資産や高額特定資産の仕入を行った場合は更に継続適用期間が延長されます)。

|簡易課税制度選択不適用届出書

簡易課税選択届出書を提出している場合は、基準期間における課税売上高が5千万円を超えない限り、簡易課税により仕入控除額の計算を行うこととなる為、還付金は生じません。

簡易課税をやめようとする場合は、簡易課税の適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後に簡易課税制度選択不適用届出書を提出します(調整対象固定資産や高額特定資産の仕入を行った場合は更に継続適用期間が延長されます)。提出日の翌課税期間からは一般課税となります。

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|仕入控除の要件

消費税の計算上、売上等に係る消費税から仕入等に係る消費税を差し引いた金額がマイナスになれば還付となりますが、仕入等に係る消費税を差し引く(仕入控除といいます)ためには要件があります。なお、商品仕入や経費の他に固定資産の購入に係る消費税も控除対象となります。

仕入控除の適用要件ですが、下記の事項が記載された帳簿及び請求書等の保存(保存期間は7年間)することとなっております。

【帳簿の場合】

①課税仕入の相手方の氏名等、②課税仕入の年月日、③課税仕入に係る資産又は役務の内容(軽減税率対象資産の譲渡等に係るものの場合はその旨)、④課税仕入に係る支払対価の額

【請求書等の場合】

①書類の作成者の氏名等、②課税資産の譲渡等を行った年月日、③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容、④税率別の課税資産の譲渡等の対価の額の合計額、⑤書類の交付を受ける当該事業者の氏名等※

※小売業等の場合は不要です。

会社員の方が副業で輸出業を行う場合、当該輸出業に係る所得は基本的には雑所得となります。雑所得の場合原則帳簿の作成は不要なのですが、消費税の輸出免税や仕入控除の適用を受けるためには上記の項目を記載した帳簿の作成が必要となります。

 

|課税期間特例選択・変更届出書

消費税は法人税や所得税と異なり、課税期間を短縮することができます。課税期間を短縮することで、より短いタームで還付を受けることができる為、資金繰りの改善に役立ちます。

適用を受けようとする場合は課税期間特例選択・変更届出書を税務署へ提出します。短縮できる課税期間は3月又は1月です。但し、その課税期間ごとに申告が必要となる為、事務負担が増すこととなります。また、2年間の継続適用となるため急な方針転換はできません。もし、やめたい場合は課税期間特例選択不適用届出書をやめようとする課税期間の初日の前日までに税務署へ提出します。

 

消費税還付手続き

消費税の還付を受けるには消費税の確定申告を行います。確定申告書には還付申告に関する明細書を添付します。申告期限は個人事業主の場合は翌年の3月31日、法人の場合は課税期間の末日の翌日から2月以内です。

|確定申告書

申告書ですが、一表二表の他、付表1-3及び付表2-3を作成します。経過措置による旧税率が適用される取引を行っている場合は、付表1-1、付表1-2及び付表2-1を使用します。

個人事業主の場合の申告書の作成方法ですが、基本的に損益計算書から数字を引用しますが、複数の所得区分や異なる税率が適用される場合は、それぞれ集計する必要があります。国税庁が提供している課税売上高計算表及び課税仕入高計算表を用いますと、所得区分ごとに適用税率別に集計することができます。

申告書への記入を行う前に、損益計算書科目の金額を課税取引と課税取引以外の取引に区分します(軽減税率や経過措置が有る場合は更に区分が必要)。こちらも国税庁が提供している課税取引金額計算表を使って集計することができます。

【留意事項】

租税公課、保険料、給料、支払利息及び減価償却費などは基本的に期末残高イコール「課税取引とならないもの」の金額となりますが、一つの科目の中に課税取引と非課税・不課税・軽減税率適用取引が混在する場合は、元帳等を調べて区分しなければなりません。具体例としましては、消耗品費などに含まれる海外事業者(登録国外事業者を除く)経由のソフトウェア利用料等や、接待交際費などに含まれる飲食料品や水の購入等が挙げられます。

 

なお、固定資産の購入や譲渡(土地等を除く)も計算に含める必要があるため、固定資産台帳を用意します(青色決算書では3ページ減価償却の計算を参照)。

法人の場合も申告書や付表への記入方法は特に変わりません。月次決算の段階で消費税の課非判定を正しく行っていれば申告作業に要する時間は短くなります。

※課税売上割合が95%超で全額仕入控除できることを前提としております。もし、同割合が95%未満の場合は課税仕入れにつき区分経理が必要です。

|還付申告明細書

続きまして、消費税の還付申告に関する明細書の記載の仕方につきましても項目別に見てまいります。なお金額は千円単位(千円未満切捨て)で記入します。

・還付申告となった主な理由

輸出免税による場合は、「輸出等の免税取引の割合が高い」に 〇 を付けます。

・課税売上げ等に係る事項

主な課税資産の譲渡等には売上高上位の取引先の名称や金額等を、主な輸出取引等の明細には輸出販売に係る売上高上位の取引先の名称や金額等を記載します。また、輸出取引に利用している金融機関の口座情報及び通関業者の氏名等につき記載します。

・課税仕入れに係る事項

仕入や経費等の決算額及び固定資産の取得価額につき記入します(付表の金額の基礎となった金額)。また、上記で使用した課税取引金額計算表などを用いて「課税仕入れにならないもの」と「課税仕入高」を記入します。そして「課税仕入れ等の税額の合計額」が付表の金額と一致していることを確認します(調整がある場合を除く)。なお、個人事業主の場合は所得区分ごとに記入を行います(通常は事業所得)。

(2) 及び (3) には 3 (1) に記載した棚卸資産、原材料等及び固定資産等の取得のうち取引金額100万円以上のものについて上位5番目※まで記載します。

※法人の場合、固定資産等の取得は上位10番目まで

・課税期間中の特殊事情

多額の売上返品が生じたなど、著しい増減があった場合にその理由を記載します。

 

国税庁のホームページの確定申告書作成コーナーを利用すれば、申告書の作成から還付明細書の作成及び提出まで行うことができます。また、電子申告の方が紙による申告よりも還付の時期が早くなります。

 

 

まとめ(Conclusion)

輸出免税の適用により、消費税の還付を受けることは可能ですが、事前に必要条件が整っていることを十分確認する必要があります。また、還付の場合は税務署からの問い合わせのケースが増えますので、書類の保管等をしっかりと行うことが求められます。

Although it would be possible to receive the refund of consumption tax for purchase by applying exemption of consumption tax for export sale, it should be duly confirmed that requirements are fulfilled in advance. When receiving refund, the local tax office could be inclined to inquire the circumstances, so it is necessary that required documents are surely kept.

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