大幅に要件が緩和されました事業承継税制につきまして、解説いたします。この特例の適用を受けるには、平成30年4月1日から5年間の間に特例承継計画を都道府県に提出する必要があります。
変更点の比較
一定の中小企業者については、要件を満たし手続き等を行うことで、非上場株式等に係る相続税及び贈与税の納税猶予及び免除を受けることができます(いわゆる事業承継税制)。
この制度が平成30年度税制改正により、変更(現行法はそのままで、新たに特例の創設)されました。
現行法と比較して、特例における主な変更点は以下の通りとなります。
対象株式
3分の2 から 全株式へ
相続税の猶予割合
80% から 100%へ
対象者(贈与者)
1人の経営者 から 複数株主へ
対象者(受贈者)
1人の後継者 から 最大3人の代表者へ
雇用確保要件
5年間8割維持 から 未達でも猶予可能(一定の場合)へ
株式売却、廃業時の評価額
承継時の株価 から 売却時、廃業時の株価へ(承継時の株価により計算した納税額との差額を減免)
相続時精算課税制度の適用者
推定相続人等 から 推定相続人以外の者へ
このように従来よりもかなり緩和されている印象です。一方でこの特例は現行法にはなかった、「特例承継計画」の提出や平成39年12月31日までに贈与を行わなければならないといった取扱いがあります。
|雇用確保要件の緩和について
経営状況が悪化してやむを得ず人員を削減したり、退職者が発生し新規採用をしようとしても採用できないようなケースが想定されることから、これまでの規定では躊躇される方もいらっしゃったかと思われます。
しかしこの特例では要件を確保できない場合であっても、納税猶予は継続されることとなりました。
但し、この場合には理由書(経営悪化等による理由の場合には認定支援機関の助言・指導も必要)を都道府県へ提出する必要があります。
|譲渡・合併・解散時等の納税猶予額の減免
現行制度では納税額の計算は、承継時の株価から計算されるため、将来の経営状況によっては、相続時の株価との間に乖離が生じるリスクがあります。
しかしこの特例では、売却時・解散時の株式評価額から計算した納税額と承継時の株価による納税額との差額が減免されることとなりました。
但し、経営環境の変化を示す一定の要件(直前事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上会社が赤字など)を満たしている必要があります。
また、株式の譲渡対価の額がその時の評価額の50%未満のケースでは、担保の提供や2年後に雇用の半数以上が確保されている等の要件が加わります。
適用を受けるための手続き
この特例の適用を受けようとする場合には、前述の通り「特例承継計画」を都道府県に提出する必要がありますが、現段階では確たる情報はないようです。
但し、作成におきましては認定支援機関の指導及び助言が必要とされています。とりあえず作成準備だけは進めておき、平成35年3月までに提出するというやり方もあります。
今後、実際に申請手続きをし、認定を受けてほっとされる方もいるかもしれませんが、この制度を適用する場合で、気を付けなければならないのが、事業承継後も手続きが必要ということです。
現行法では、継続届出書を税務署へ提出することとなっているのですが、これは贈与税の申告期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの期間は、毎年提出する必要があり、さらにそれ以後は3年毎に提出する必要があるのです。
また、愛知県の場合ですが、同様に5年間は毎年年次報告書を提出する必要があります。
もし、顧問税理士等の変更などがあった場合には、手続き漏れがないよう十分に気を付けなければなりません
まとめ
今回の特例ですが、内部留保が大きく、経営が安定されている会社様にとっては現行法と比較し、メリットの大きな制度となっている印象です。
一方で、そうでない規模の小さい会社様にとっては、コストや手続きの煩雑さを考慮しますと、暦年贈与であったり、役員退職金の支給などで相続対策される方が良いかもしれません。